NO SURRENDER
自分にたどり着くまで
Boxer飯泉健二

2001/03/01 ぴあ試写室
網膜剥離でリングを降りたボクサーが9年後にカムバック。
ボクサー飯泉健二を追ったドキュメンタリー。by K. Hattori


 サウスポーのハードパンチャーとして快進撃を続け、デビューからたった2年で日本フェザー級1位。階級をスーパーフェザー級に上げてさらに上を目指していた矢先、プロボクサーの飯泉健二は網膜剥離と診断されてライセンスを剥奪される。1989年のことだ。網膜剥離のボクサーは、本人の意志とは関係なく引退を余儀なくされる。それが日本ボクシングコミッション(JBC)の定めたルールだ。だが飯泉はこれに納得しない。たとえライセンスを取りあげられても、自分はまだ現役だという自負がある。引退セレモニーを拒否し、幾度も辛い目の手術を受け、ジムに通って過酷なトレーニングを人一倍の量こなし、プロボクサーとしての引き締まった体を維持し続ける。いつか再び、プロのリングにカムバックする日を夢見て。飯泉のジム通いは9年間も続く。

 飯泉健二というボクサーを僕は知らなかった。だが日本チャンピオンでさえなかったこの男の名前を知っているのは、よほどのボクシングファンだけだろう。飯泉は'67年1月生れ。'89年にJBCから引退勧告を受けたとき、彼はまだ22歳の若者だった。それから9年間を孤独なジム通いに費やした飯泉は、いよいよカムバックが決まったという時、既に30歳になっている。今は妻がいる。子供もふたりできた。リングから遠ざかっていた9年の間に、彼の肉体はボクサーとしてのピークを迎え、今は明らかに年齢による衰えを感じ始めている。ボクサーとして花開くべきもっとも重要な時期を、目の怪我で空費してしまった男。だが彼はその空白の9年間も現役のボクサーであり続けたことを証明するかのように、IBFという団体の試合に参加する。その試合に出れば、日本のボクシング界からは追放されるとわかっていながら、それでも彼はリングに上がる。

 この映画は飯泉の孤独な9年間と、復帰試合に向けてのトレーニング、そして試合の様子までをビデオで撮影したドキュメンタリー。ただし9年間を密着取材したわけではなく、復帰試合まで数ヶ月かけて取材した素材を使って、それ以前の期間も構成しているようだ。この手法そのものは悪くないし、観ていて特に気になるわけでもない。むしろ気になるのは、取材している数ヶ月間の密度があまり感じられないこと。ここにもう少しボリューム感があれば、この映画はもっと見ごたえのあるものに仕上がったような気がする。

 飯泉健二は'67年生まれで、監督の永伊智一は'65年生まれ。年齢的にすごく近い。だったら同世代の人間として、30過ぎても夢にぶつかっていこうとする男の生き方に肉薄していってほしかった。もっともこれは、'66年生まれで飯泉や監督と同世代である僕の無い物ねだりかもしれない。試合によって自分のボクサー人生にひとつの区切りをつけた飯泉が、その後どんな人生を歩んでいるのかというフォローもほしい。試合は'98年の1月。それから丸3年たっている。30まで夢を追い、そこから第二の人生を踏み出そうとする男の姿が僕は観たい!

2001年3月31日公開予定 BOX東中野
配給:グループ現代


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