chong

2001/03/07 ぴあ試写室
朝鮮学校の軟式野球部員を主人公にした青春映画。
正攻法の剛速球。面白い映画でした。by K. Hattori


 日本映画学校の卒業製作作品として作られ、昨年の「第22回ぴあフィルムフェスティバル/PFFアワード2000」では、グランプリ、企画賞、エンターテインメント賞、音楽賞の4部門を受賞した作品。監督は李相日(リ・サンイル)という'74年生まれの新人。上映時間も54分と、普通の劇場映画に比べるとものすごく短い。でもこの映画は、そこいらの2時間を超える大作よりよほど面白いのだ。監督は名前から想像できるように在日朝鮮人。『青〜chong〜』は監督が小学校から高校までを過ごした朝鮮学校を舞台に、野球部に所属する悪友同士の友情や、幼なじみの少女への淡い想いなどを丁寧に描いた青春映画。朝鮮学校は普通の日本人にとってアンタッチャブルな領域で、存在は知っているし生徒たちを街で見かける事はあっても、その内情についてはまったく未体験の世界。この映画はその内部にカメラがずかずかと入り込んでいくだけでも面白い。もちろんそれ以外にも、面白いところはたくさんあるけどね。

 この映画のユニークなところは、「朝鮮学校ってやっぱり特殊な世界だよね」という部分を映画の入口にしているところ。世間で都市伝説のように囁かれている「朝鮮学校の生徒は喧嘩がめちゃくちゃ強い」という部分から、いきなり映画が始まってしまうのもすごい。映画は最終的に、朝鮮人も日本人も関係なしに「俺は俺で生きていこう」という地点に物語を着地させるのだが、そこに至る過程では、いかに朝鮮学校の生徒が日本人を敵視しているかが徹底して描かれる。これは同時に、在日朝鮮人社会の日本人に対する敵意でもある。主人公の姉が日本人の恋人を家に連れてきたとき、その日本人男性に向けられる家族全員からの露骨な敵意。

 ところがこの映画の不思議なところは、そういう場面を見ていても、日本人として居心地の悪い気分になることがないところ。同じ敵愾心でも『ユリョン』になっちゃうと「なんだか変な映画を観ちゃったぞ」という以後事の悪さを感じるのに、この『青〜chong〜』についてはそれがまったくない。これは作り手のユーモアセンスもあるだろうし、「反日感情」という民族心情を、日常の中の他の感情と巧みに結びつけているからでもある。例えば姉の恋人に対する反発は、娘が突然見ず知らずの男を連れてきて結婚したいと言い出したことに対する、親の狼狽や戸惑いと結びついている。日本人の不良をぶん殴る冒頭シーンも、この不良たちがあまりにもガラが悪いので、殴られるのも当然という気持ちになる。

 朝鮮学校という世界がいかに周囲から孤立しているかを示すため、金日成と金正日親子の肖像画を小道具に使うセンスなどは秀逸。主人公・楊大成(ヤン・テソン)と趙玄基(チョウ・ヒョンギ)の二人組に加え、コメディリリーフで李青福(リ・チョンボ)という男が現れたあたりからは笑いの連発だった。じつに面白い。

 脚本を練り直して1時間20分ぐらいの映画にすれば、全国公開できるぐらいの実力があると思うぞ。

2001年4月21日公開予定 BOX東中野
配給・宣伝:ぴあ
ぴあURL:http://www.pia.co.jp/pff/chong/


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