チキンラン

2001/03/09 東宝第1試写室
『ウォレスとグルミット』のアードマン・アニメーションズ最新作は、
ドリームワークスと組んだニワトリ版『大脱走』。by K. Hattori


 『ウォレスとグルミット』シリーズで一世を風靡したアードマン・アニメーションズが、ドリームワークスと組んで作った長編アニメーション映画。養鶏場のニワトリたちが自由な世界を目指して脱出作戦を練るという、映画『大脱走』のパロディのような作品になっている。

 上映時間1時間25分はアードマンのアニメ作品としては大長編だが、最近の映画の中では短い部類。物語は単純明快なので、この時間をやや持て余している気配もなくはないが、この映画の魅力は物語そのものより、繊細で緻密なアニメーション技術そのもの。話がだらけていても、人形たちの表情を観ているだけで飽きないと思う。そもそもこの映画は、このキャラクターに魅力が感じられなければ観る意味もないだろう。ニワトリ、ネズミ、イヌなどの動物たちが、じつに表情豊かでチャーミング。悪役の人間たちも、見事な芝居を見せてくれる。

 今回はアードマンにとって初のメジャー作品ということもあってか、登場するキャラクターのデザインは『ウォレスとグルミット』ほどの毒がない。それぞれ個性的に描けてはいるけれど、グロテスクになる一歩手前で可愛さに転じているようなユニークさは感じられなかった。お話にも観客をうならせるような見せ場がなく、決まり切った筋立てに沿って淡々と物語が進行していくような感じを受ける。このあたりはアードマンが大手と組んで骨抜きにされたわけではなく、本格的な劇場用長編アニメという世界にチャレンジするにあたって、まずは手堅い部分をきちんと押さえておこうという慎重さだと僕は解釈している。アードマンはドリームワークスとこの作品も含めて5本の製作契約を結び、その中には『ウォレスとグルミット』の新作も入っているというから、むしろ以前からのアードマン・ファンはそちらを大いに期待して待つ必要があるかもしれない。

 『ウォレスとグルミット』の魅力は、アニメーションでこそ可能な徹底したスラップスティック・ギャグの炸裂にあった。『チキンラン』を物足りなく感じるのは、この映画にスラップスティックの醍醐味が薄いからではなかろうか。これは脚本上の問題だと思う。おそらく長編映画の企画にゴーサインを出す段階で、映像が完成してみなければ面白さのわからないスラップスティックより、脚本を読んである程度は完成品が予想できるシチュエーション・コメディ路線を選んだ結果がこの映画になっているのではないだろうか。『ウォレスとグルミット』のファンが「ニワトリたちが『大脱走』をやるコメディ映画」と聞いて期待するドタバタギャグは、この映画の中にあまりないと思う。

 もちろんアードマンらしさは十分にあるし、お話としてもよくできているから、観ても損はしないと思う。パイ製造マシンをめぐる主人公たちの大活躍は、スラップスティック調でファンにも十分満足できると思う。でもここに『ウォレスとグルミット』のアナーキーな魅力を求めてしまうと、ちょっと肩すかしを食うに違いない。

(原題:Chiken Run)

2001年4月公開予定 みゆき座他 全国東宝洋画系
配給・問い合わせ:シネカノン、アミューズピクチャーズ
ホームページ:http://www.chickenrun-jp.com/


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