ドルフィン

2001/03/13 東京アイマックス・シアター
イルカの世界と最新の研究成果を大型映像で紹介。
イルカと一緒に泳いでいる気分になれる。by K. Hattori


 東京アイマックス・シアター他、全国のアイマックス・シアターで上映される大画面映像の新作。タイトルからもわかるとおり、イルカの生態や人間との関わりを描くドキュメンタリー作品だ。海洋生物学者キャサリン・ダジンスキーを案内役に、彼女の研究拠点となっているバハマ諸島やパタゴニアの海を、アイマックスの高精細かつ巨大な画面でたっぷりと見せてくれる。劇場の音響効果をフルに活用し、イルカの群の中にカメラが入り込むと、イルカの声が客席を取り囲むように四方八方から聞こえてくるのも印象的。客席に居ながらにして、イルカと一緒に海の中で泳いでいるような気分にさせられるのだ。ナレーションは日本語版になっているが、日本語ナレーションをキャサリン・ダジンスキー本人が担当しているのも好感が持てる。プロの声優やナレーターが流暢な日本語に吹き替えてしまうより、たとえ片言で怪しげな発音でも、画面に登場している本人が話している方が格段に説得力が増すのです。この映画の魅力の何割かは、このナレーションにあると思う。

 この映画に好感を持つもうひとつの点は、この映画がイルカを野生動物として描いている部分にある。イルカは高い知能を持っているし人懐こい部分もあるが、決して「人間のお友だち」ではない。イルカの生態にはまだまだ謎の部分が多いし、不用意に近づいて刺激すれば人間に危害を加えることだってある。人間とイルカは決して対等な関係ではないのです。海の中では人間はまるで不格好にしか泳げない弱い生き物で、それに比べるとイルカははるかに優雅で力強い生き物。海の中では人間はまったくイルカにかなわない。しかし同時に人間は、イルカを大量に捕獲して虐殺する力も持っているし、さまざまな汚染物質でイルカの暮らす海を汚したり、ボートのスクリューでイルカを傷つけたりもしている。生活域の違う人間とイルカは、むしろ無意識のうちに敵対していることの方が多いのです。もちろんイルカが陸上の人間を襲うことなんてあり得ないから、人間がイルカを傷つけるという意味での敵対ですが……。

 陸上の生物でもっとも知能の高い生物である人間と、海中の生物の中でもっとも知能の高いイルカがどう関わり合っていくかという研究は、まだ始まったばかりです。この映画の案内役であるダジンスキー博士や、イルカのジョジョと深い友情(?)で結ばれたディーン・バーナルたちは、世界の誰よりも深くイルカを理解しようとしている人たちですが、それでも彼らはまだイルカについてほとんど何も知らない。何も知らないのに「イルカは友だち」と言ってしまうのは、人間側の傲慢というものでしょう。肝心のイルカ側が人間をどう思っているか、まだ何もわかっていないのですから。

 人間に必要なのはイルカを簡単に友だち扱いすることではなく、イルカという海中でもっとも進化を遂げた素晴らしい生き物に対する「敬意」かもしれません。この映画を観ながら、そんなことを考えました。

(原題:DOLPHINS)

2001年5月12日公開予定 東京アイマックス・シアター
(他 全国のアイマックス・シアターにて上映予定あり)
配給:(株)さらい
ホームページ:http://www.sarai-inc.com (4月1日開設予定)
http://www.dolphinsfilm.com


ホームページ
ホームページへ