大混乱
ホンコンの夜

2001/03/16 シネカノン試写室
『無問題』の柳の下を狙う田口浩正主演の香港映画。
これは企画が悪かった。つまらない。by K. Hattori


 1997年6月30日。香港の中国返還という歴史的な瞬間を迎えるこの日、香港駐在の日本人サラリーマン三木拓郎は30歳の誕生日を迎えていた。「30歳の誕生日を特別なものにしたい」と考えた三木は、初恋の人に似た娼婦ジョイと一緒に過ごそうと考える。大枚を払ってホテルに乗り込んだ三木だったが、肝心なときになってコンドームがない。街にコンドームを買いに出た三木は、どういうわけかさまざまなトラブルに巻き込まれて、返還式典を迎える香港に大騒動を引き起こす。監督・脚本のサム・リオンは岡村隆史主演の『無問題』を作ったプロデューサーで、この映画が監督デビュー作だという。主人公の日本人・三木を演じているのは、『シコふんじゃった。』『Shall we ダンス?』の田口浩正。

 正直言ってまったく面白くない映画だが、ひょっとしたら香港映画の大半はこの程度のレベルなのかな。「コンドームを手に入れたいスケベでドジな日本人が行く先々で騒動を引き起こし、それをテロ事件と勘違いした警察が振り回される」という、ただそれだけのアイデアで1時間半の映画を作るのだが、エピソードがいかにも行き当たりばったりで相互のつながりに乏しい。行き当たりばったりの展開は脚本なしで撮影する香港映画らしいと言えなくもないが、それで面白い映画にするには、個々のエピソードが粒ぞろいの面白さになっていなければならない。(香港映画でアクション映画やアクションコメディが発達したのは、そんな香港映画事情が理由になっているのかもしれない。)ところがこの映画では、個々のエピソードがまったく面白くないのです。ひょっとしたら面白いのかもしれないけれど、主役が田口浩正では笑えない。たぶんこれは、田口浩正という役者の資質の問題ではないだろうか。

 周防正行の映画でコミカルな役を演じることの多い田口浩正ですが、たぶんそれがコミカルに感じられるのは脚本段階できちんとキャラクターが作り上げられ、そこに田口浩正の持ち味が加わることで抜群の存在感が生まれているからだと思う。田口浩正は天性のコメディアンというわけではなく、彼がひとりでカメラの前ではしゃいで見せてもあまり面白くないのではなかろうか。田口浩正は役者なのです。それがコメディアンである岡村隆史との違いなのでしょう。この映画にはインチキ宗教の教祖役で岡村隆史がゲスト出演しているのですが、彼の出演シーンはやはりそこそこ面白くなっている。あるいはレストランの店員を演じているロー・ガーインの登場シーンも面白い。こうした「画面に登場するだけで面白い人たち」に比べると、田口浩正は魅力不足です。

 これは田口浩正が悪いのではなく、映画の作り手が彼の資質を誤解していた結果でしょう。たぶん作り手としては、田口浩正がカメラの前に現れるだけで、何か面白いことが起きると思ったんでしょう。これは作り手にとっても、出演した田口浩正本人にとっても、かなり不幸な誤解だったと思う。いろいろ残念な映画でした。

(原題:香港之夜 HONG KONG NO YORU)

2001年4月21日公開予定 銀座シネパトス(レイト)
配給:大映 宣伝・問い合わせ:大映宣伝部


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