暴れん坊兄弟

2001/03/23 東映第1試写室
山本周五郎原作。主演は東千代之介と中村賀津雄。
観られて幸せ。これは大傑作。by K. Hattori


 大傑作。山本周五郎の「思い違い物語」を鷹沢和善が脚色し、沢島忠が監督した昭和35年製作の明るく楽しい娯楽時代劇だ。主演は東千代之介と中村賀津雄。のんびり屋でおっとりした性格から「昼行灯」「石仏」と同僚たちから陰口をたたかれている泰助だが、どういうわけか若い主君・松平長門守に可愛がられ、彼のお国入りを前に一足先に国元に戻っているように命じられる。そんな泰助とは正反対におっちょこちょいで粗忽者の弟・泰三は、離ればなれになった兄が心配で仕方がない。殿様に願い出て兄のもとへ行くことを許された泰三は、国元でも兄が同輩たちから馬鹿にされているのを見て怒り爆発の大暴れ。じつは国元では殿様の留守をいいことに、藩の重役たちが藩財政を食い物にして私腹を肥やしていたのだ。泰助と泰三の兄弟は、好むと好まずとに関わらず、藩政の裏にある汚職事件に巻き込まれていく。

 地方の小藩に巣くう悪党たちの悪だくみを、外部からぶらりとやってきた少々得体の知れない侍が手際よく解決してしまうという、同じ山本周五郎原作の『椿三十郎』や『どら平太』と似たようなストーリー展開。しかしこの映画の軽さとスピード感に比べると、『椿三十郎』も『どら平太』も野暮ったく感じられてしまう。映画の最初と最後に、主人公のひとりであるあわてん坊の泰三が、スクリーンの中から観客に向かって話しかけてくるという演出がなかなか面白く、しかも抜群の効果を上げている。この演出によって、この映画の世界が観客の側にぐっと近づいてくるのだ。

 後先考えずにまずは行動に出てしまうという泰三のキャラクターは現代にも十分に通じるし、出世や栄達を望まずいつもぼんやりとして見えてなぜか殿様に好かれ、いざとなると獅子奮迅の活躍ぶりを見せる泰助のキャラクターは『釣りバカ日誌』シリーズのハマちゃんみたいなところがあって好感が持てる。東千代之介がおっとりした泰助演じると、ただの薄ぼんやりした男ではなく、常人の物差しでは計りきれないスケールの大きな人物に見えてくる。泰三を演じている中村賀津雄は、とにかく元気溌剌として爽やか。兄の錦之助が殿様役で出演しているのだが、千代之介や錦之助が持っている風格や貫禄は、この頃の中村賀津雄にはあまり感じられない。(これは現在の中村嘉葎雄にもないのかもしれないけど。)千代之介演じる泰助は泰然自若として動かないキャラクターで、中村賀津雄演じる泰三はひたすら動くタイプ。しかし最後の最後には兄の泰助も堪忍袋の緒が切れて、獣のような叫びを上げて暴れ回ることになる。この「静」から「動」へのダイナミズム!

 今から40年以上も前の映画なのに、ギャグシーンでちゃんと爆笑が生まれるところはすごい。映画史に残るような作品ではないかもしれないが、これは東千代之介にとっても中村賀津雄にとっても、監督の沢島忠にとっても代表作と言える作品なのではなかろうか。観た後は満足度120%。こんな映画が観られるなんて幸せです。

2001年5月12〜6月3日 三百人劇場
「東映黄金時代劇・沢島忠の世界」
問い合わせ:アルゴピクチャーズ、三百人劇場
ホームページ:http://www.bekkoame.ne.jp/~darts


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