夢の旅路

2001/03/26 TCC試写室
ティム・ロス扮するタクシー運転手が迷い込んだ不思議の国。
ファンタジックな異色のラブ・ストーリー。by K. Hattori


 ティム・ロスが奇妙な世界に紛れ込むタクシー運転手を演じるファンタジー映画。どこからどこまでが現実で、どこからどこまでが幻想の世界、あるいは別世界なのかよくわからない不思議な作品。現実とファンタジーの世界はこの映画の中で物語の裏と表のように分かれているのだが、その継ぎ目がどうしても見つけだせない。表面をずっとたどっていくと、いつの間にか裏側に出てしまうメビウスの輪構造の映画なのだ。

 1930年代。道路も町もない砂漠のど真ん中で有料道路の料金所を営む老人がいるという噂を聞きつけて、はるかフランスからドキュメンタリー映画の撮影隊がやってくる。撮影隊とすっかり打ち解けた老人は、料金所を造った動機を語り始める。50年の間追い求めた夢と、撮影隊の真ん前でその夢がもろくも崩れる現実。だが老人は次の車を待ち続ける……。時代は下って現代。すっかり老人になった撮影隊の3人は、ニューヨークで1台のタクシーに乗り込む。目的地も決めずに始まる旅。やがて老人たちは車を降りるが、運転手は自分にとっての運命の人を探すため、一人きりの旅に出る。

 監督・脚本はマイケル・ディ・ジャコモという新人。キャスティングがやけに豪華で、主人公のタクシー運転手ヘンリーをティム・ロスが演じる他、冒頭のエピソードに登場する料金所の老人にミッキー・ルーニー(まだ生きていたのは知っていたけど、やたらと元気!)、タクシー強盗にジョン・タトゥーロ、森の中のトレーラーハウスで暮らす老人にロッド・スタイガー。こうした豪華な顔ぶれから何か物語が始まるのかと思うと、それが見事に肩すかしされてしまうのだけれど……。

 物語の辻褄が合っていないわけではないのだが、エピソードはどれも現実離れしていて、そのままありのままの現実だとは思えない。オズの魔法の国やアリスが迷い込んだ不思議の国に、目が覚めたまま足を踏み入れたような気分になってくる。しかもタチが悪いことに、この魔法の国(不思議の国)とこの世との境界に、ウサギの穴や竜巻という明確な区分があるわけではないのだ。この映画を通して作り手たちが何を伝えようとしたのかを読みとるには、かなりの努力が必要。あらゆるメッセージが影絵のように間接的な形でしか映画の中に登場しないので、観客は歪んだ影絵から作り手の意図を推理しなければならない。映画の中には似たような場面がある。シーツのスクリーンに映し出された少女の影。だがシーツ越しに主人公が影の実態をつかんだと思った瞬間、少女はするりと身体を揺らしてどこかに去ってしまう。

 およそハリウッド的ではない実験的な作風の映画。作者が何を訴えたかったのかは把握しにくいが、個々のシークエンスの完成度はかなり高い。この世界に最初からはまれる人にとっては、ものすごくいい映画なのかもしれない。残念ながら僕にはこの映画の世界が理解できなかったのだが……。ミッキー・ルーニーの近況が観られただけでもよしとしようか。

(原題:ANIMALS)

2001年5月公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:キングレコード、シネマストリーム 問い合わせ:シネマストリーム、高松美由紀
ホームページ:http://www.imageforum.co.jp/theater/


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