ファイターズ・ブルース

2001/04/20 映画美学校試写室
アンディ・ラウの映画出演100本記念映画。共演は常盤貴子。
舞台はタイ。主人公は元キックボクサーだ。by K. Hattori


 常盤貴子とアンディ・ラウ主演の香港映画。監督は一昨年に常盤貴子とレスリー・チャン主演で『もういちど逢いたくて/星月童話』を撮っているダニエル・リー。僕は前回の映画をまったく面白いと思わなかったのだが、今回はそれよりはだいぶ観られる映画に仕上がっていると思う。物語は1980年代半ばから始まる。若手のキックボクサーとして注目されていたタイガーは、国際トーナメント試合が行われていたタイで、ピムという女性記者と出会って愛し合うようになる。だがそれから間もなく、タイガーは刑務所に入って10数年を過ごすことになる。釈放されて真っ先にピムのもとに向かった彼は、彼女が5年前に取材中の事故で亡くなっていることを知る。驚いたことに、彼女はタイガーとの間にプロイという女の子を産んでいた。タイガーは愛する女が残した娘に会うため、タイの孤児院に向かう。

 タイガーの恋人ピムを演じているのは、『ブロークダウン・パレス』『ナンナーク』のインティラー・ジャルンプラ。映画の序盤で死んでしまい、それ以降は回想シーンや幻影としてしか現れないのだが、観客には強い印象を与えるはずだ。彼女が主演の『ナンナーク』より、脇役に徹しているこの映画の方が素敵に見える。メソメソ泣いてばかりいる受け身の女性ではなく、自分で仕事を持ち、相手の男性と対等な関係を築ける現代女性として描かれているからだろうか。このピムに比べると、常盤貴子演じる孤児院のシスター、澪子はいささか影が薄いように思える。澪子は重大な過去を文字通り背中にしょって生きているのだが、その過去がどんなものだったのか、ついに映画の中で明らかにされることはない。

 タイガーはなぜ刑務所に服役することになったのか。彼はピム亡き後、娘のプロイを受け入れられるのか。プロイは自分と母を放り出して姿を消していたタイガーを、父親として認めることができるのか。タイガーは自ら背負った過去をどう精算し、新しい一歩を踏み出していくのか。これらが映画の中心になるドラマ。ここに常盤貴子演じる澪子が立ち入る余地はあまりない。澪子はカトリックの孤児院で働くシスター(修道女)という設定なので、タイガーとの間に生まれる恋愛感情が素直に全面に出てくることもない。そもそもタイガーはピムとの関係をまだ自分の中で整理し切れていないのだから、澪子と新しい関係を気付いていく気持ちの余裕はまるでない。タイガー、ピム、澪子という三角関係は、もっと別の描き方があったと思う。ここで「例えば」という話をしても意味がないのだけれど、この三角関係のあり方によっては、プロイの扱いも変わってくると思う。

 タイガーは自分の気持ちに決着をつけるため、再びリングに上る。スター主演の映画だから、当然こういう流れになるのはわかる。でもこの試合の結末にはまったく納得できない。この試合によってタイガーは自分の人生にけじめを付ける。しかしそれは、プロイや澪子の存在を置き去りにした、独りよがりの自己満足だと思う。

(原題:阿虎 A Fighter's Blues)

2001年5月19日公開予定 全国ワーナー・マイカル・シネマズ
配給:オメガ・ミコット
ホームページ:http://www.fighters-b.com/


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