忘れられぬ人々

2001/05/07 映画美学校試写室
『おかえり』の篠崎誠監督が作った老人たちのドラマだが……。
物語と語り口が合っておらず印象が散漫になる。by K. Hattori

 デビュー作『おかえり』でベルリン映画祭最優秀新人賞を取るなど世界的にも高く評価された篠崎誠監督が、ようやく4年ぶりに撮った新作映画。太平洋戦争の激戦地となった南方の島から何とか生きて帰ってきた戦友三人組が、ある事件に巻き込まれるという話。あまり細かく書いてしまうと未見の人の興が醒めると思うのだが、映画の序盤で予想した物語とはまったく違う方向に物語が逸脱していくあたりが、ちょっと不思議に思える映画なのだ。戦場で死線をくぐり、戦後の激動の時代を懸命に生きて来たものの、今は社会の中心から離れて静かに暮らしている男たち。彼らにも日々の喜びや楽しみはあるが、それはごくごく些細なものに過ぎない。映画の前半ではそうした穏やかな生活が淡々と描かれ、古い仲間同士の友情、夫婦愛、新しい出会いへのときめきなどが、時にユーモアを交えながら描かれる。ところが中盤からその雲行きが怪しくなって、あれよあれよという間に、思ってもみなかった結末に……。

 時代遅れの老人たちが自分たちの誇りをかけて最後にもうひと踏ん張りという展開は、ペキンパーの『ワイルドバンチ』やイーストウッドの『スペースカーボーイ』のように、活劇にしてしまう方が簡単だったと思う。たぶんこの映画も最初は、そうした「老人活劇」として企画されたものに違いない。三橋達也演じる木島等という男は戦争で家族を失ったこともあってヤケになり、戦後の一時期はヤクザをしていたという強面の男。これに東映任侠映画に多く出演していた大木実演じる村田平八という居酒屋亭主がからみ、コメディリリーフに突貫小僧こと青木富夫がくっついて(役名は伊藤民夫)好色と純情ぶりで観客の笑いを取る。一度は現役を退いた男たちが、やむにやまれぬ理由から再び戦いの場に足を踏み出すわけだ。最後の場面は『ワイルドバンチ』や東映任侠映画の道行きシーンに重なり合うわけでして……。

 たぶん同じ話から、正統派の活劇映画を作ることだって可能なのです。でも篠崎監督の関心は活劇ではなく、途中から老人たちの日常生活の描写に向かってしまったんだと思う。そしてこの映画の魅力のほとんどは、この日常描写にあるのです。主人公たち3人組はみんな魅力的な好人物だし、居酒屋平八の夫婦愛もよく描けている。内海桂子がじつにうまい。風見章子の上品さも忘れがたい。ここにからんでくる真田麻垂美と遠藤雅という若いカップルも、初々しくてちょっといい感じ。

 映画序盤や中盤までの楽しく和気藹々とした雰囲気がじつに素晴らしいため、途中から出てくるカルト宗教めいた会社の存在や最後のシーンに、僕は大きな違和感を持ってしまうのです。あまりにも唐突で、木に竹を接いだような印象。他にも何か解決方法があるのではないか。物語をここに着地させるには、映画にもっと別の語り口が必要な気がする。主人公たちの追い詰め方が、まだ甘いのかな。最後にカタルシスは必要ないんだけど、「この方法しかなかったのだ」という納得は与えてほしい。

2001年8月公開予定 テアトル新宿
配給:ビターズ・エンド、タキコーポレーション 問い合わせ:ビターズ・エンド
ホームページ:
http://www.bitters.co.jp/



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