LOUISE
(TAKE2)

2001/05/08 メディアボックス試写室
エロディ・ブシェーズがホームレスの青年と恋に落ちる話。
パリの街並みがじつに美しく描かれる。by K. Hattori


 エリック・ゾンカ監督の『天使が見た夢』でカンヌの主演女優賞を受賞した、エロディ・ブシェーズ主演の異色青春映画。ヒロインの名前はルイーズ。学生だと言うが学校にはほとんど行っている形跡がなく、もっぱら街の中をブラブラして過ごしている。主な収入源は万引き。恋人のヤヤはストリートギャングで、仲間とつるんでは暴力沙汰や盗みを働いている。ある日ルイーズは地下鉄構内でひとりのホームレスに出会う。その男は離れて暮らしている息子に、一目会いたいと言うのだ。ルイーズはほんの気まぐれから、この願いを聞き入れてやろうとする。保護者の代理と偽って、小学校からギャビーを連れ出すルイーズ。だが酒とドラッグでどんよりとした表情のホームレスを見て、ルイーズはギャビーを彼に会わせるのをやめてしまう。同じ頃ルイーズは、レミというホームレスの青年に出会う。ルイーズとレミとギャビーは、手に手を取って街をうろつき始める。

 映画の中にはいろいろな事件や出来事が描かれているのだが、大きなドラマというものは特にない。この映画はルイーズとレミのラブストーリーであり、ヤヤを加えた三角関係の物語でもあり、ルイーズとレミにギャビーを加えた疑似家族の物語でもある。まったく性質の違う幾つかのドラマが、薄くてもろいパイ生地を重ねたように重層的に配置されている。この中からどれかひとつのエピソードだけを取りだして再構成しようとすれば、そのエピソードと重なり合う別のエピソードは壊れてしまうだろう。映画のシナリオは普通、建築物のようにしっかりした骨組みを作ってそれに肉付けして作られているから、映画からその肉を引き剥がしていけば最後には映画の中心にある骨組みが見えてくる。でもこの映画は、そうした骨にあたる部分が見えてこない。いくつものエピソードを骨組みに張り付けて大きくするのではなく、エピソード同士を粘土細工のようにギューギュー押し固めて作ったような映画です。

 映画の終盤になると多少は全体の構成に考慮したようなところも見えてくるけれど、むしろこの映画はそうした構成が見えない前半から中盤までがとても面白い。伏線を張りながら物語を作っていくという定石を踏んでいないので、あるエピソードの次に何が起きるか、映画を観ていてもまったく予想がつかない。まるで映画を観ている側も、その場で今起きている出来事を目撃しているような臨場感がある。手持ちカメラを使って粗い粒子の映像を撮るという撮影技法が、ドキュメンタリー調の雰囲気を作り出していることも大きい。

 映画全体としてどうこうという話ではなく、映画のあちこちに、好きにならずにいられない場面がたくさん散りばめられている作品だと思う。僕はデパートでの万引き騒動の後、バレエ教室を抜けて大きな屋根の上からパリの街を見下ろすシーンがとても好き。監督・脚本・音楽・撮影を担当したシグフリードは、これがデビュー作。

(原題:LOUISE(TAKE2))

2001年今夏公開予定 シブヤ・シネマ・ソサエティ
配給:ザナドゥー
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