おいしい生活

2001/05/15 GAGA試写室
銀行強盗夫婦が副業の堅気な商売で大富豪になったら……。
ウディ・アレン監督主演のドタバタコメディ。 by K. Hattori


 ウディ・アレンの最新作。アレン扮する間抜けな泥棒レイ・ウィンクラーが、彼に輪をかけて間の抜けた仲間たちと計画した一世一代の強盗計画。それは銀行の並びにある空き店舗の地下からトンネルを掘り、銀行の金庫室に侵入するという単純かつ大胆不敵なものだった。ところが計画に加わった男たちは全員が間抜けの能なし揃いだから、肝心のトンネル掘りはいつまでたっても進まない。そうこうしているうちに、カモフラージュ用にレイの妻フレンチーが開店したクッキーショップが馬鹿受け。店の前には連日長蛇の列ができ、フランチャイズ展開も成功してウィンクラー一味は大富豪になってしまう。1時間36分の映画で、ここまでが約30分。アレンの映画は例によって、テンポがまことによろしい。

 映画の最初の3分の1は、間抜けな男たちが強盗襲撃に向けて苦心惨憺する犯罪コメディ。中盤の3分の1は、一夜にして(実際は1年だけど)億万長者になったウィンクラー夫婦のちぐはぐな成金生活ぶりを笑い飛ばすシチュエーションコメディ。大金持ちになったらマイアミでのんびり過ごしたいと思っているレイと、大金持ちになったら芸術家のパトロンとして社交界の花形になりたいと願うフレンチー。貧しいときは貧しいなりに仲良くやってきたのに、金が手に入ると夫婦間に亀裂ができてしまうという、あちこちでよく見聞きするようなお話。しかし映画はいささか強引に、夫婦を元の鞘に収めてハッピーエンドとしてしまう。この強引さも痛快。

 1930年代から'50年代ぐらいの古きよきハリウッド映画を思わせるコメディで、現代社会を皮肉るようなとげとげしさはないし、風刺が効いているわけでもない。残酷なシーンはないし、卑猥なシーンもない。もちろんアクションシーンもないし、派手な爆発もカーチェイスなんてとんでもない話。現代の感覚からすると、これはすべてが“ないないづくし”の映画にも思える。でもウディ・アレンの映画の場合、むしろそれが安心感を生む。何も起きない、何も変わらない、すべてが予定調和で収まるべきところに収まる結末を確認して、「ああやっぱりウディ・アレンの映画だった」と満足する。

 今回の見どころはレイとフレンチーの愛すべきキャラクターや凸凹夫婦ぶりを、軽快な台詞のやりとりで生き生きと描き出しているところ。互いに相手に辛辣な言葉を投げかけながら、やっぱりふたりが強く愛し合っているという雰囲気が強く出ているのがいい。ブツブツと早口で喋り続けるアレンと、大声でドキリとするような台詞をずばずば言ってのけるトレーシー・ウルマンの掛け合いはどれも面白い。こうした掛け合い芝居の面白さに加え、この映画ではアレン本人がコメディアンとしての個人技を披露しているのも見逃せない。アレンがクライマックスで見せる、サイレント時代のコメディ俳優のような身体の動きの素晴らしさ。このドタバタぶりは、観ていて思わずニコニコしてしまいます。新作映画なのに、とても懐かしい気持ちになる映画です。

(原題:Small Time Crooks)

2001年8月公開予定 恵比寿ガーデンシネマ
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ 宣伝:ギャガGシネマ、アップリンク
ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/


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