すべての美しい馬

2001/05/25 SPE試写室
マット・デイモンが大農場主の娘ペネロペ・クルスと恋に落ちる。
濃厚なドラマをやけにあっさり描いている映画。 by K. Hattori


 第二次大戦への参加と勝利によって、世界の大国へと歩みだしていく野心あふれるアメリカ。この映画の主人公は、そんなアメリカからはじき出された青年だ。祖父の経営するテキサスの大牧場で長年働いてきたジョンは、祖父の死によってすべてを失ってしまう。相続人である母は牧場経営に何の興味も持たず、石油会社に土地を売り払うことを決めたのだ。ジョンは一緒に農場で働いていた親友レイシーと共にメキシコに渡り、現地の大農場で牧童として働き始める。農場主に馬を見る眼を見込まれたジョンは、メキシコでの新しい生活にも溶け込んでいくかに見えた。だが農場主の娘アレハンドラとの恋が、彼を過酷な試練へと導いていくことになる。

 主人公ジョン・グレイディ・コールを演じているのはマット・デイモン。アレハンドラ役はペネロペ・クルス。映画はこのふたりの恋がドラマの核になっているが、別にラブストーリーというわけではない。見どころは相棒や行きずりの少年との珍道中と国境越えであり、奪われた馬を取り戻すサスペンスであり、広大な牧場で放牧されている馬を馴らすシーンであり、刑務所での過酷な生活からいかに生還するかであったりする。『モンタナの風に抱かれて』のような、牧場を舞台にしたラブロマンスを期待すると、ちょっと肩すかしになるだろう。これは恋も含めた様々な事件と試練の中で、大人の男へとたくましく成長して行く少年のお話なのだ。恋愛も描かれてはいるが、それは主人公ジョンを成長させる様々な要素のひとつに過ぎない。夢と挫折、恋と失恋。主人公ジョンの人生は決して順風満帆なものではなく、彼は旅の中で傷つき、疲れ、打ちのめされる。だが映画の最後はちゃんとハッピーエンドになっているのだ。

 原作はコーマック・マッカーシーのベストセラー小説。監督は『スリング・ブレイド』のビリー・ボブ・ソーントン。今回は本人の出演なしで、監督に専念している。脚本は『羊たちの沈黙』のテッド・タリー。相棒レイシー役で『E.T.』のエリオット少年として知られるヘンリー・トーマスが出演し、ふたりをトラブルに巻き込むジミー・ブレヴィンズを『スリング・ブレイド』のルーカス・ブラックが演じている。サム・シェパードやブルース・ダーン、ロバート・パトリックなど、ワンポイントの脇役に味のあるベテランを配していることも、映画の厚みにつながっていると思う。

 ものすごくきれいな映画で、心にすっと浸みてくるような感動がある。しかしこの物語、少年が冒険を通じて成長していく話として考えると、演出に粘っこさと熱さが足りないような気もする。心理的な葛藤が強調されるシーンも、ソーントン監督はやけにサラリと描いてしまうのだ。ジョンとアレハンドラのロマンスや、刑務所での息詰まる戦いなど、もっとしつこく描いてもよかったと思うけどね。最もこれは好みの問題かも。この映画には熱く濃厚なスープの味はないが、幾度も濾過され純度を上げた蒸留酒のような口当たりのよさがある。

(原題:ALL THE PRETTY HORSES)

2001年6月公開予定 日比谷スカラ座2他 全国東宝洋画系
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 宣伝・問い合わせ:メディアボックス
ホームページ:http://www.spe.co.jp/


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