ナイトシフト

2001/06/15 日仏学院エスパス・イマージュ
ガラス工場に勤めた男が味わう職場での猛烈な嫌がらせ。
人間関係の複雑さと不思議さがよく描けている。by K. Hattori

 ガラス工場に勤めるピエールは夜勤の仕事に移った初日から、同僚のフレッドに意地悪をされるようになる。理由はよくわからない。社交的で誰からも愛されるピエールに対する嫉妬なのか? それとも自分の仕事や家庭生活がうまくいっていないことに対する八つ当たり? その理由はピエールにはさっぱりわからないし、この映画を観ている観客にもわからない。おそらくフレッド自身にもよくわかっていないのだろう。物語はピエールの家庭生活と職場での仕事ぶりをバランスよく配置しつつ、問題児フレッドとの確執と対立を描いていく。

 職場で新人を冗談めかしてからかうことは、世界中のどんな場所に行ってもあることだろう。勤務初日にこっぴどいイタズラの洗礼を受けるのも、そう珍しいことではあるまい。しかしそれがいつまでも執拗に続くと、職場の人間関係がおかしくなるし、業務にも支障を来すようになる。この映画はそのギリギリのところまで、ピエールとフレッドの関係を追いつめていく。なぜフレッドはピエールにいつまでも付きまとうのか、観客は非常に気になるからいろいろと原因を考える。でもそれは最後の最後までわからない。ここで安易に原因を作り出さなかったことが、この映画の最大のよさだと思う。観客が「なるほどこれが原因か!」と思って安心した後に、それを軽々と裏切ってしまう意地の悪さ。人間は複雑なものなのです。「こんな原因があって、こんな結果が出ました」と、中学生が習う方程式のように簡単にひとつの結論が出るわけではない。

 最近はテレビの報道番組で「性格異常」という言葉を聞く機会が多いのですが、この映画に登場するフレッドは「性格異常」そのものか、それに限りなく近いパーソナリティの持ち主です。でもこの映画の中で一番魅力的な光を放っているのも、同じフレッドなのだから面白い。職場の中で誰よりも目立っていないと我慢できないお山の大将体質で、感情の起伏が大きく浪花節型の人情家だから、粗暴な反面涙もろいところもある。味方になればこれほど頼りになる奴もいないのだが、些細なことで腹を立てて因縁を付けてくることもある。楽しいときは朗らかに笑い、辛いことがあれば酒に溺れる。「ドラえもん」に出てくるジャイアンが、そのまま大人になったような性格です。困った奴で憎たらしいのだけれど、彼の存在を全否定する人はたぶん誰もいないと思う。「ドラえもん」のジャイアンというキャラクターがそうであるように、このフレッドという男には、荒削りな人間の原型そのものといった魅力があるのです。

 ピエールを演じているのはジェラルド・ラルーシュが嫌味のないよき社会人を演じているが、この映画はやはりフレッド役のマルク・バルベあってのものだと思う。この役は一歩間違えると本当にただの乱暴者になってしまうのですが、バルベはそのあたりをうまく演技でコントロールしていると思う。監督・脚本はフィリプ・ル・ゲイ。なかなか見応えのある映画でした。

(原題:TROIS HUIT)

2001年6月22日10:00上映 パシフィコ横浜
(第9回フランス映画祭横浜2001)

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