BACK STAGE

2001/06/25 映画美学校第2試写室
俳優養成所で再会した幼なじみの男女。やがて彼女は不治の病に。
まるで古くさい少女マンガみたいに陳腐。by K. Hattori

 『不法滞在』『借王/シャッキング』の香月秀之監督が、『9-NINE』に続いて高田宏太郎主演で撮った青春映画。役者を夢見る若者と歌手を目指している少女が出会って恋に落ちるが、やがて少女は不治の病に冒されてしまう……というまるで30年以上前の少女マンガみたいなお話。この話自体を古くさいと一蹴してしまうこともできるのだが、一見古くさそうに見えるドラマの中に、現代の感覚を盛り込んで成功している映画はたくさんある。古典は現代の息吹を浴びて、いつだって新しく生まれ変わる。しかしこの映画は、そうした生まれ変わりに成功しているとは言えないだろう。

 この映画は話が古くさいのだから、物語のディテールには現代の観客が観て納得できるだけのリアルな描写が必要だと思う。例えばヒロインが天才的な歌唱力を持っているというエピソードが必要なら、本当に誰が聴いても納得できるだけの声を持った女優をキャスティングするか、昔のミュージカル映画のようにプロの歌手の録音にあわせて口パクさせるべきなのです。でもこの映画でヒロインを演じている京島奈央に、観客を納得させるだけの歌唱力が備わっているのだろうか? アイドル歌手ならこの程度の細くてチャーミングな声でもいい。でも彼女はブロードウェイ・ミュージカルのオーディションを受けようとしているのです。腹の底から朗々と歌い上げるような歌唱法でないと、舞台ではまるで通用しないと思う。この女優は新人なのですが、もっとちゃんと歌える女優は世の中にいくらだっていると思うけどな。

 主人公が主演する映画の主演女優がとんでもないわがまま娘で……という話にも笑うしかないんだけど、それはまぁ置いておく。それより気になったのは、ヒロインが運動ニューロン疾患という病気にかかって、あっという間に容態が悪化することだ。運動ニューロン疾患は実在する病気で、映画『ヴァージン・フライト』ではヘレナ・ボナム・カーターが、『ヒューゴ・プール』ではパトリック・デンプシーがこの病気の患者を演じている。実在の有名人では野球選手のルー・ゲーリックがこの病気で亡くなっているし、物理学者のホーキング博士も同じ病気になっている。いずれにせよ病気の進行は一般にゆっくりしたものだから、発症からわずか数ヶ月で死んでしまうなんてあり得ないはず。また病気の進行にあわせて舌がもつれて喋れなくなるので、この映画のようにヒロインが最後まで周囲と正常に言葉を交わすということもあり得ないだろう。こうした病気を持ち出すときは、きちんと実在の病気を取材して欲しいし、せめて同じ病気を取り上げた他の映画ぐらい観ておくべきだと思う。

 しかしそれより断然気になるのは、主演した高田宏太郎の髪型だ。この若い俳優は野性的で鋭いその目つきに特徴があるのだけれど、この髪型ではいつも半分以上目が隠れてしまうではないか。映画撮影に入る前も後も同じ髪型というのも解せない。この髪型にこだわり続ける限り、彼は絶対メジャーになれないだろう。

2001年8月18日公開予定 銀座シネパトス
配給:日活、メディアボックス 宣伝:メディアボックス

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