眺めのいい部屋

2001/07/03 TCC試写室
E.M.フォースターの小説をジェイムズ・アイボリー監督が映画化。
アカデミー3部門受賞。とにかくきれいな映画。by K. Hattori

 E.M.フォースターの同名小説を、ジェイムズ・アイボリーが監督した1986年製作のイギリス映画。製作はイスマイル・マーチャント。主演はヘレナ・ボナム=カーターとジュリアン・サンズ。翌年のアカデミー賞で脚色・美術・衣装の3部門を受賞した他、5部門にもノミネートされるなど、世界中で高い評価を受けた作品だ。すでにDVDも発売されている作品だが、何しろアカデミーでも評価されたのが美術と衣装だから、これは大画面で観るとまた格別なのだ。アイボリー監督はこの好評に気をよくしてか、この後もフォースターの小説『モーリス』と『ハワーズ・エンド』を映画化している。

 20世紀初頭のフィレンツェ。旅行者としてこの美しい街を訪れたルーシーと付き添いのシャーロットは、到着早々、裏路地に面した部屋の眺めの悪さに大いに失望する。食堂でそのことを愚痴っていると、やはり旅行でやってきていたエマソン父子が部屋の交換を申し出てくれた。最初はぶしつけな申し出に当惑していた二人だが、知人であるビーブ牧師の取りなしでこの厚意を受けることにする。エマソン氏は気さくな自由人という雰囲気だが、保守的なシャーロットはそれを野蛮と受け止めて気に入らない様子。息子のジョージは少し神経衰弱気味。宿の人たちとピクニックに出かけた日、ジョージは出し抜けにルーシーに口づけする。だがふたりの関係はそこまで。ルーシーはイギリスに帰り、そこでセシルという青年と婚約する。ところがその直後、近所にエマソン父子が引っ越してきてしまった……。

 今から15年前の映画なので、さすがにヘレナ・ボナム=カーターが若い。ジュリアン・サンズも初々しい。セシル役のダニエル・デイ=ルイスもぴかぴか光ってる。ジュディ・デンチとマギー・スミスはあまり変化ないけど、まぁこれはしょうがない。ちなみにデンチとスミスはこの映画の数年後に、それぞれ英国王室から「ディム」の称号を受けている。テーマ曲を歌っているキリ・テ・カナワも「ディム」称号の持ち主なので、それだけでもこれは何やらすごい映画なのかもしれない。まぁこういう称号をすごいと思ってしまうのは、一種の権威主義かもしれないけどね……。ちなみに「ディム」は男性の「ナイト」の相当する非世襲の爵位です。

 とにかく全体に物凄くきれいな映画で、オープニングから使われている装飾過多なタイトルも含めて、全体がおとぎ話のようです。これは現代を舞台にしては絶対に成立しないお話で、だからこそこの映画は最初から最後まで徹底して「昔風」の描写にこだわり抜く。衣装、美術、音楽もクラシックを使う。でも出演している役者たちは、必ずしも古風な人物ではなく、現代に生きている我々にとっても身近な人物として描かれる。それがこの映画のねらいであり、面白さだと思う。話は最後までみえみえの予定調和なので、この雰囲気に酔えるかどうかがこの映画の評価の分かれ目かもしれない。じつは僕はちょっと、酔えなかったんですけどね……。

(原題:A Room with a View)

2001年8月14日公開予定 ル・テアトル銀座
配給:クレスト・インターナショナル

ホームページ:http://www.crest-inter.co.jp/



ホームページ
ホームページへ