ボディ ドロップ アスファルト

2001/07/03 映画美学校第2試写室
新人小説家エリの見た気まぐれな幻想の結末は?
和田淳子監督の長編映画デビュー作。by K. Hattori

 '73年生まれの女性監督・和田淳子の長編映画デビュー作。プレス資料の言い分によれば、彼女は“日本のアバンギャルドをリードするフィルム・メーカーの一人”なんだそうですが、僕はこの監督についてまったく知らなかった。世界各地の映画祭に作品を出品して、それなりの評価を受けている監督だそうです。なるほどだからこそ、この映画にも個性的な出演者が揃っていたりするわけですね。作品はビデオ撮り。

 僕は最近、ビデオ撮りの映画について何の抵抗感もなくなってきてしまった。ほんの5年ほど前までは「ビデオなんて映画じゃない。やっぱりフィルムこそが本物の映画なんだ!」と思っていたのですが、最近はビデオとかフィルムというメディアで「映画か否か」を判断するのはナンセンスだと考えている。じゃあ何が映画なのかといわれても明確な定義付けは出来ないのだが、少なくともこれから、作り手が作品の中で何を表現したいのかという内実が、より問われていくことになるのは間違いないだろう。少なくとも「フィルムで撮りました。だから映画です」という時代はもう終わったのです。そうした前提でこの『ボディ ドロップ アスファルト』を観ると、これはやっぱり紛れもなく「映画」だと思う。

 この映画の「ストーリー」は単純。何も取り柄のない主人公・真中エリが暇つぶしに書いた陳腐な恋愛小説が文芸誌の新人賞に選ばれて、彼女は続編を書くことになる。ところがその直前に男に立て続けに振られ、傷心のエリは小説の中で憂さ晴らし。デビュー作の続編はどろどろの家庭崩壊ドラマになってしまう。作者の気まぐれすぎる態度に作中の人物が反乱を起こし、エリを彼女の妄想がすべて現実化する世界に連れて行く。まぁそんな話。小説や映画の登場人物が現実化するとか、作者が自分の作品世界の中に入り込むなんて映画、今までに何度作られたかわからない。要するに、話自体に特に新鮮みは感じません。でもこの映画が面白いのは、その表現手法。圧倒的に台詞過多なバランスの悪い語り口。怪しい口ひげの編集者や、どう見ても外国人で日本語も片言なのに日本人だと主張する男など、エキセントリックな登場人物が次々に登場。やけに精巧なディテール描写と、素っ頓狂なストーリー展開のギャップ。主人公が男を追いかけるとき、わざわざサンダルに履き替えて「私はあわてて部屋を飛び出しました」と自己演出するなど、登場人物たちの心理描写がやけに生々しいくせに、その行動は徹底的にでたらめにも見える。本来は同居しないはずの物事が、この映画の中では渾然一体としないまま同居していて、絶妙の不協和音を奏でているのだ。

 映画は音楽に似ている。古典的な映画作りは和声やリズムの調和を重視し、全体の構成にも一定の形式があるし、対位法のテクニックを持ち込むこともある。でもこの映画はそうしたクラシック音楽のルールに従わない現代の音楽なのだ。「ちょっとどうかな」と思うところもあるけれど、じつに楽しく観られる映画でした。

2001年8月4日公開予定 シアター・イメージフォーラム(レイト)
宣伝協力:アルゴ・ピクチャーズ

ホームページ:http://www.bodydropasphalt.com/



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