魚と寝る女

2001/07/04 GAGA試写室
湖で出会った男と女の壮絶で残酷なラブストーリー。
痛そうな描写に思わず身震いと鳥肌。by K. Hattori

 人里離れた湖に浮かぶ、釣り客用の浮き小屋。管理するのは口数が極端に少ない若い女で、湖岸と浮き小屋の間を結ぶのは彼女の操るボートのみ。小屋に渡った男たちは彼女を通じて必要なものをすべて買い、時には彼女の体を買うこともある。無表情な女はそんな男たちの様子を、ただぼんやりと眺めている。そんな場所に、浮気した恋人と相手の男を殺し、死に場所を探している男がやってくる。彼は持っていた拳銃で自殺を図るが、女にそれを阻まれてついに死にきれない。やがて男と女は急速に距離を縮めていくが、男の性的な要求に応えることを女は拒絶し、逆に電話でコールガールを呼んで男にあてがおうとする。男は若いコールガールに気に入られて、彼女は商売抜きで男の通うようになるのだが……。

 恋人を殺して警察から逃れようとした男が、湖で出会った不思議な女に捕らえられて逃げられなくなるという物語。男が起こした事件について短い回想シーンがあるものの、その他の物語はすべて湖の上で進行する舞台限定ドラマ。登場人物は大勢いるが、物語に大きく絡んでくるのは、警察から逃げる男、彼をかくまう女、それにコールガールぐらい。女は最初から最後までついに一言も言葉を発しないので、映画の中で台詞が占める割合は極端に少ないものになっている。この女、言葉が喋れないわけではないのだ。コールガールを呼びつけるとき、彼女はちゃんと受話器に向かって話をしている。ただしこのシーンはガラス越しに描写されるので、彼女の言葉は観客に聞こえない。映画はこうして彼女の言葉を制限することで、言葉を超えた彼女の情念を浮き彫りにする。

 残酷なシーンが何度か出てきて、試写室の中でも「うわ」とか「ひゃ〜」という軽い悲鳴のような声が幾度か聞こえた。生きた鯉の身を削いで、再び水の中に放すというのも「うへ〜」だったが、何と言ってもこの映画で「うげげ〜、もうやめてくれ〜」という気分にさせられるのは、2回登場する釣り針のシーンだと思う。このシーンは、1度見たら絶対に忘れられない。縛られた女が溺れ死ぬとか、釣った魚をバラバラにしてしまうとか、生きた魚に電気を流すとか、そんなことはどうだっていい。この映画の極めつけは釣り針。これで決まり。

 女が男を捕らえてしまうという映画は『砂の女』や『ドリフト・ウッド/ガラスの檻』などの先行作品があって、特別新しいアイデアではないと思う。ただこの映画の場合は、男と女が持っている共通の傷や負い目によってふたりが固く結ばれるという筋立て。映画の中では一言も説明されていないが、この女、男が来る前にも別の誰かを殺しているんじゃないかと思わせるのだ。彼女は自分自身と同じ罪の匂いを、男の中に感じたのではないだろうか。この映画はラブストーリーの一種だが、ここには「恋愛=甘い幻想」という余地が少しもない。

 女を演じているのはソ・ジョン。男を演じたのはキム・ソヨク。脚本・監督はキム・キドク。痛そうな描写が苦手な人は敬遠した方がいいよ。

2001年8月下旬公開 テアトル池袋
配給:GAGAアジアグループ

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/

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