千と千尋の神隠し

2001/07/11 東宝第1試写室
宮崎駿監督待望の新作。全編が紛れもない宮崎ワールドだ。
テーマも明確。最初から最後まで楽しく見られる。by K. Hattori

 『もののけ姫』という大ヒット作の後、いったいどんな映画を作っているのかと期待させた宮崎駿監督の最新作。両親と一緒に廃墟のような不思議な町に迷い込んだ千尋という10歳の少女が、魔法で豚にされてしまった両親を救うため、魔女の経営する風呂屋で働くという話。ビジュアルはあくまでも宮崎ワールドだが、映画の中身はいろいろな神話・児童文学・映画などからエピソードやイメージを借りたものになっている。千尋の働く湯屋に八万の神々が集うという設定がそもそも日本神話っぽいし、千尋の両親が不思議な国の食べ物を食べて豚に変えられてしまうというエピソードは、「古事記」の中でイザナギノミコトが黄泉国の食べ物をとって見るも無惨な姿に変えられたという神話を連想させる。魔女に双子の姉がいるという設定は『オズの魔法使』で、千尋の最後の試練はプロイスラーの「クラバート」に似たエピソードがあった。名前の持つ呪術性も、民俗学の教科書に出てきそうなエピソードだと思う。

 こうした物語の上でのエピソード拝借に加えて、この映画は過去の宮崎作品からの引用やイメージのオーバーラップが目立つ。例えば全身どろどろのクサレガミは『風の谷のナウシカ』の巨神兵だし、カオナシは『もののけ姫』のシシ神みたいだ。湯婆婆や釜爺は『天空の城ラピュタ』に似たような顔の人物が出てきたような気がするし、白竜は『もののけ姫』の狼と同じ顔。そしてススワタリはもちろん『となりのトトロ』にも登場していた。こうして観ていくと、この映画にはあまり新鮮味が感じられないかもしれない。でもこうして「どこかで見た顔ぶれ」が揃うことで、この映画は全体が「宮崎駿ワールド」になっているのだと思う。

 エピソードの引用元が容易にわかるということも含めて、過去の宮崎作品に比べると物語がこなれていないような気もする。でもそれを上回る圧倒的な絵の力と演出力があるから、この映画は2時間強の長丁場をまったく飽きさせないのだ。物語のテーマも明快。ただ主人公の成長ぶりを描くなら、「帰りたい」「もういやだ」と言ってはいけないという禁止事項を強調したり、初期の千尋をもっと何も出来い愚図で泣き虫の女の子にしたほうがよかったかもしれないけど、そうすると「普通の女の子」とはまた違ったものになってしまうのかな。

 廃墟のような町に灯りがともり、影法師のような神々たちがゆらりゆらりと町を徘徊するシーンの恐さ。湯屋の中のお祭り騒ぎのような喧噪。印象に残る場面はたくさんある。千尋がおにぎりを頬ばるシーンではこちらまで涙が出そうになるし(このシーンは音楽が効果的)、ハクが自分の名前を取り戻したときの開放感には鳥肌が立つような興奮がある。これは完璧な映画ではなく、むしろいびつなところが目立つ作品だと思う。でもそのいびつさの中に、親しみやすさも感じるのです。完璧な作品とはとても思えないけれど、少なくとも『パール・ハーバー』や『A.I.』よりはよくできた映画です。

2001年7月20日公開予定 全国東宝洋画系
配給:東宝

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