はじまりはオペラ

2001/07/11 TCC試写室
オペラ座のプロンプターを主人公にしたノルウェー映画。
音楽たっぷりの楽しい映画です。by K. Hattori

 オペラ座でプロンプターとして働くシヴ。劇場では間もなく公演されるヴェルディの歌劇「アイーダ」の稽古が始まり、シヴの仕事も忙しくなってきた。彼女は子連れのバツイチ男フレッドと結婚目前だが、彼はシヴがオペラの稽古でしばしば夜遅く帰宅するのに不満そう。音楽の趣味も合わないし、シヴは何となくフレッドにしっくりしないものを感じ始めている。まぁ結婚前には誰だって「これでいいのかな?」と不安になるものです。でも再婚のフレッドは、そうしたシヴの気持ちにまったく無頓着。やがてシヴとフレッドはささやかな結婚式を挙げるが、新婦に捧げる歌を前の結婚式と使い回しする義母、シヴの運び込んだ荷物を地下室に放り込む夫、フレッドの前妻ヘレンになついてシヴの同居に不満そうな子供たち、子供にかこつけて新婚家庭に堂々と出入りして我が物顔に振る舞うヘレン、そうした一切合切にまったく無神経なフレッドの姿に、シヴの神経は逆なでされるばかり。同じ頃シヴは、オペラの稽古にやってきたオーケストラのチューバ吹きマルカスと知り合う。

 ノルウェーの映画監督ヒルデ・ハイエルの長編デビュー作で、1999年のアカデミー外国語映画賞にノルウェー代表として選出された作品。オペラをテーマにした映画は少なくないが、プロンプターを主人公にした映画は観たことがない。この映画は劇場の客席からは決して見えないプロンプターという裏方が、具体的にどんな仕事をしているのかという描写を観るだけでも楽しい映画だ。オペラの稽古風景やオーケストラボックス、客席などの様子が、プロンプターの視線で描かれているのもユニーク。プロンプターは演奏者でも歌手でもなく、かといって道具や衣装が係のような完全な裏方でもない。舞台の進行にあわせて公演に直接参加していながら、表からはそれがまったく見えないと言いう不思議な立場です。この映画ではそんなプロンプターという仕事と、フレッドと前妻のすったもんだに巻き込まれてしまうシヴのプライベートな生活を二重写しにしている。

 物語は3つの三角関係がオーバーラップしながら描かれる。ひとつは劇中劇「アイーダ」に描かれるエジプト王朝の三角関係。もうひとつは、シヴとフレッドの夫婦に前妻ヘレンを加えた三角関係。さらにシヴとフレッド夫婦とチューバ吹きマルカスの三角関係が絡んでくる。「アイーダ」は映画の味付けだから除外するとして、問題はシヴとフレッドを軸としたふたつの三角関係だろう。

 映画の中ではフレッドが最初からデリカシーのない人間として描かれていて、観客は映画を見始めた直後から「そんな奴とは早く別れてしまえ!」と思うに違いない。フレッドに悪意はないんだろうけれど、ちょっと無神経なところと物事を楽観的に考えすぎるところ、八方美人であちこちにいい顔をしたいところがある。たとえ悪意がなかろうと、フレッドは悪い人なのです。観ていて本当に嫌になるのですが、こうした嫌なところは僕も持っていたりするわけで、観ていて胸がちくりと疼きました。

(原題:Sufflosen)

2001年秋公開予定 渋谷・シネマ・ソサエティ
配給:アルシネテラン

ホームページ:http://www.alcine-terran.com/

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