ルムンバの叫び

2001/07/16 TCC試写室
1960年にコンゴ首相になったパトリス・ルムンバの伝記映画。
歴史的背景がわかりにくい。あと一工夫必要か。by K. Hattori

 1960年にベルギーから独立したコンゴで、最初の首相になったパトリス・エメリー・ルムンバの伝記映画。物語は彼の死から始まり、本人のナレーションによる回想形式で、独立を目前にした3年前まで時計の針を戻す。

 僕の飲み込みが悪いのかもしれないが、なんともわかりにくい映画だった。コンゴの独立、独立後に起きた政権内での確執、軍による反乱と外国勢力の介入(コンゴ動乱)、ルムンバの失脚と逮捕殺害という歴史の流れがあらかじめわかっていれば面白いのかもしれないが、なんの予備知識もなしにいきなりこれを見せられても、何がどうしてこういう悲劇が起きてしまったのかよくわからない。わかりにくさに輪をかけるのが、この映画が採用した回想形式。これによって時間を大幅に省略したり、必要なエピソードに急にジャンプしたりすることが可能になっているのだが、逆にドラマがしばしば中断されてしまうという欠点もある。事実を丹念に取材している映画であることは伝わってくるが、ルムンバの周囲で事態が刻々と変化していき、それにルムンバがひとりで振り回されているような印象も受ける。

 ルムンバはその理想主義のために周囲から孤立するのだが、その孤立を象徴するためにルムンバの他にもうひとり主人公を立てて、その人物との対立を物語の軸にした方がよかったと思う。映画の中にはルムンバのかつての盟友であり、後に袂を分かってルムンバの死後クーデターを起こして大統領になるモブツという男が出てくる。ルムンバとモブツは共に何を夢見て活動し、どこで方針が違ってしまったのか。最終的に勝利したのは、はたしてモブツだったのか、それともルムンバだったのか。たぶん勝利者はルムンバだったのだ。死後30年たってもルムンバは国家の英雄で、モブツは自分の理想を捨てて権力にしがみつき、結局はクーデターで職を追われて国を追放され、その直後に死んでいる。

 植民地からの独立がなぜそんなに性急に求められなければならなかったのか。ルムンバの求める中央集権と、カサヴブの目指す連邦制の矛盾。旧宗主国のベルギーがコンゴに残そうとした影響力。コンゴ動乱の背後にあった米ソ2大国の対立。そうした背景が映画からはなかなか読みとれず、ひどく小さな世界の中で血なまぐさい争いが行われているように見えてしまうのは残念。ルムンバたちの行動の背景には、常にコンゴ以外の「国際社会」というものがあったと思うのだが、この映画はそれをほのめかすだけで終わっている。国際社会の中で新興独立国のコンゴが、旧宗主国や大国という長いものに巻かれていく中、ひたすら本当の独立を主張し続けたルムンバ。なぜ彼が周囲から煙たがられたのか。彼の主張はどれだけ新しく、また正しいものであったのかを、丁寧に絵解きしてほしかった気もするのだ。

 監督のラウル・ペックは'91年にルムンバについてのドキュメンタリー映画を作っており、本作は彼にとって2度目のルムンバ映画。思い入れは伝わってくる。

(原題:LUMUMBA)

2001年9月15日公開予定 BOX東中野
配給・宣伝:アルシネテラン

ホームページ:http://www.alcine-terran.com/

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