PAIN
-ペインー

2001/07/27 シネカノン試写室
家出して池袋にやってきた若者達を描く青春映画。これは傑作。
現代風俗のスケッチと人間ドラマのバランスが見事。by K. Hattori

 17才の真理は、ボーイフレンドの敦と一緒に池袋で仕事を探している。何度かふたりで出てきた池袋だが、今回はもう家に帰らないつもりだ。だが仕事はなかなか見つからず、ふたりは別行動でそれぞれ仕事を探すことにする。街でパー券を売っている加奈と出会った真理は、彼女を通じて援助交際の世界を垣間見ることになる。同じ頃AV嬢の美樹に逆ナンされた敦は、ホテルから出たところで美樹のマネージャーに引き抜きのスカウトマンと間違えられて事務所に連れ込まれ、それが縁でスカウトマンの真似事を始めるようになる。

 渋谷や池袋などを歩いていると、路上には大勢のスカウトマンがいて通りかかる女性たちに声をかけている。スカウトマンの存在は誰もが見て知っている。でもスカウトマンたちが具体的に何をしているのか、その実態を知っている人はあまりいないだろう。僕も知らなかった。この映画は誰もが知っているけどじつは知らないスカウトマンの生態を、まるでドキュメンタリー映画のように描いているユニークな映画だ。下元史朗が演じるプロダクション社長のキャラクターが秀逸。彼が敦の様子を優しく見守り一人前のスカウトマンに育てていこうとする姿はなかなか頼もしいオヤジさんなのだが、じつはいろいろとワケアリな様子が少しずつ明らかになってくる。

 少女がはまりこむ援助交際の世界を描いた映画としては、'97年に原田眞人監督の『バウンスkoGALS』という傑作があった。ただし原田監督が描いていたのは、夜の渋谷に花開く少女たちの友情の物語。この映画『PAIN』では、少女が少女を食い物にする殺伐とした世界が描かれている。援交の元締めとなる加奈という少女の存在がユニーク。池袋にたむろする少女たちとパー券を使って援交組織を作って荒稼ぎし、稼いだ金をその世の内にホストクラブで使い果たしてしまう加奈。真理に親しげに近づきながら、彼女をダシに中年オヤジたちから金をむしり取る遣り手ババアぶりを発揮するど迫力。スカウト事務所の社長と援交少女の加奈は、池袋の裏の顔を象徴する存在。まったく別々の世界に済んでいるかに見えたこのふたりがじつは同じ種類の人間であることは、映画の終盤に用意されたエピソードで明らかになる。

 この映画が成功している理由のひとつは、映画の舞台に池袋という街を設定していることだと思う。現在の東京で、「東京」と「地方」の境界にあたるポイントが「池袋」なのだ。東京に出てきた真理と敦にとって、池袋こそが東京そのもの。しかし池袋はそのまま彼らが出てきた地方へと繋がっている。渋谷や新宿に比べても、池袋はずっと泥臭い。この泥臭さは一種の生活臭のようなものだと思う。渋谷や新宿には暮らしている人の匂いがしないけれど、池袋には何となく生活の匂いがするのだ。デパートと映画館とファストフード店と風俗とラブホテルが混在しているような池袋のたたずまいが、この物語を非常に生き生きとさせていると思う。同じ話を渋谷で作ると、また別の展開になってしまいそうだ。

2001年10月27日公開予定 中野武蔵野ホール
配給:アルゴ・ピクチャーズ
(上映時間:1時間54分)

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