サイアム・サンセット

2001/08/03 TCC試写室
不幸を次々引き起こす男がオーストラリア旅行に出かけたら……。
悲劇と喜劇は紙一重。その両方を描くユーモラスな映画。by K. Hattori

 世の中には宝くじで高額賞金を引き当てる運のいい人がいる。宝くじで1等にぶち当たる確率ははたして何パーセントなんだろうか。しかし世の中には宝くじの1等当選よりもまれな確立で、思いもよらない不幸に出くわす人がいる。例えば塗料メーカーで新しい色の開発研究者として働くペリーは、愛する妻が飛行機の落とした冷凍冷蔵庫の下敷きになって目の前で亡くなるという事故に遭遇する。それ以来抜け殻のようになったペリーは、かつてあれほど情熱を傾けていた仕事にもまったく身が入らなくなってしまう。しかも妻の死以来、彼の周辺では不審な事故や事件が相次ぎ、怪我人や病人が相次ぐ始末。妻の死も含めてこうした不幸の原因はすべて自分にあると考えるペリーは、外出もなるべく避けてひとり家に閉じこもる生活を続けていた。父親と出かけたビンゴ大会で、1等のオーストラリア旅行を当てるまでは……。

 主人公ペリーの行く先では次々にトラブルが起きる。しかしそれがペリーの運の悪さと言えるのかどうかはわからない。不幸はペリー本人にではなく、本人の周囲にいる人に降りかかるからだ。本人はそれを不本意に思い、周囲になるべく人を近づけまいとする。そんなペリーがおんぼろバス旅行で否応なしに赤の他人と一緒に行動することになり、地理条件や天候不順などの理由でそこから抜け出すこともできず、心配していたとおり次々に事件が起きるというのがこの映画の基本的な筋立て。これを抱腹絶倒のコメディにするのではなく、ちょっとユーモラスで皮肉なヒューマンドラマ風に仕上げているのがこの映画の面白さ。製作のアル・クラークはドラッグクイーンがバスで旅をする『プリシラ』のプロデューサーだった人で、今回の映画もそれに似たテイスト。砂漠のドライブインに閉じこめられるくだりは、『バグダット・カフェ』を思い出させる。監督のジョン・ポルソンはこれが長編デビュー作。主人公ペリーを演じているのは『司祭』『鳩の翼』のライナス・ローチ。ヒロインのグレースを演じているのは、『TOPLESS』で妊婦姿を披露していたダニエル・コーマック。ちなみにタイトルの『サイアム・サンセット』というのは、主人公ペリーが開発しようとしている新しい色の名前。

 映画に登場する人物たちは、誰もが多かれ少なかれ欠点や問題を抱えている。ペリーは妻の死というショックが生む虚脱状態からいつまでも立ち直れず、「世の中のすべて不幸は自分が原因」と言わんばかりの顔つき。ヒロインのグレースは付き合っていた男との間にトラブルを抱えているし、バスの運転手はライバル会社への対抗意識から大問題を引き起こす。バスの乗客もドライブインの経営者夫婦も、はっきり言って困った人たちばかりなのだ。しかしこうした「困った点」が、その人たちの人間的な魅力になっている。不幸を引き寄せるペリーの体質(?)が最後には大きな武器になることも、この映画のメッセージを象徴しているのだ。不幸は幸福に繋がり、欠点は長所になる。これも世の中の真理だろう。

(原題:SIAM SUNSET)

2001年10月13日公開予定 銀座シネパトス
配給:エスパース・サロウ
(上映時間:1時間33分)

ホームページ:http://www.espace-sarou.co.jp/SIAM.html

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