シャンプー台の向こうに

2001/09/03 GAGA試写室
『フル・モンティ』のサイモン・ボーフォイが美容師の世界を描く。
アラン・リックマンがうらぶれ親父の意地を見せる。by K. Hattori

 『フル・モンティ』や『マイ・スウィート・シェフィールド』でイギリス労働者階級の生活を臨場感たっぷりに描き出した脚本家サイモン・ボーフォイが手がけた、小さなヘアサロンのドラマチックな人間模様。監督はバディ・ブレスナック。製作総指揮はシドニー・ポラックだ。今回モチーフになっているのは、イギリス各地の腕自慢が集まる全英美容選手権。舞台になっているキースリーは、ヨークシャーの小さな田舎町という設定だ。町興しのため町に全英美容選手権を誘致した町長のがんばりにも関わらず、町民はまったくこのイベントに興味を示さない。この町には小さな床屋とパーマ屋が1軒ずつあるだけで、町民たちは流行の最新のヘアスタイルなどとまったく無縁の生活を送っているのだ。

 だがこのいかにも田舎町の床屋とパーマ屋にしか見えない店には、町民なら誰もが知っている因縁があった。床屋の主人フィルとパーマ屋の女主人シェリーはもと夫婦で、10年前まではカリスマ美容師夫妻として全世界のトップに立つ実力者だった。だが選手権3連覇を目前にした前夜、シェリーは夫のフィルと息子ブライアンを残したままモデルのサンドラと駆け落ちしてしまったのだ。それから10年。ふたりは通りを1本隔てた場所にそれぞれ店を構えながら、一言も言葉を交わすことがなかった。だがシェリーは病院で末期ガンの診断を受けたことから、人生の最後に家族と和解しようとするが……。

 日本の配給会社はこの映画を『パール・ハーバー』で売り出したジョシュ・ハートネットの主演作として宣伝するつもりのようだが、物語の中心は離ればなれになった夫婦の和解であり、10年間世界の表舞台から退いていたカリスマ美容師が再び脚光を浴びる物語に他ならない。ハートネット演じる息子ブライアンは、両親の和解を脇から眺める立場であり、いわば狂言回しなのだ。いわく因縁のある両親を演じているのは、アラン・リックマンとナターシャ・リチャードソン。元ヘアモデルでシェリーのパートナーとなっているサンドラをレイチェル・グリフィスが演じる他、フィルのライバル美容師の娘という役どころで『シーズ・オール・ザット』のレイチェル・リー・クックが出演しているのが嬉しい。

 映画の見どころは、美容選手権で披露される美容師たちの華麗な技と、斬新でユニークなヘアスタイルの数々。選手権に登場する美容師たちそれぞれが個性的で、ドラマの本筋と関係ないところで大小の笑いを振りまく。美容選手権という、普通の人はその存在すらあまり気にしないようなイベントを舞台にしたコメディだが、この映画に登場する町民たち同様、映画を観ているうちに少しずつ選手権の面白さに引き込まれていく。映画の中心はあくまでも「家族の再生」にあるので、美容選手権そのものは中盤までいまひとつ盛り上がらない。しかし伝説のハサミの持ち主フィルがついに選手権に出場するクライマックスは、思わず「すげ〜や!」と感嘆の声を上げてしまいそうになる。あのヘアスタイルはすごすぎ。

(原題:BLOW DRY)

2001年11月公開予定 シャンテシネ
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:ポップ・プロモーション、ギャガGシネマ
(上映時間:1時間35分)

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/

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