闇を掘る

2001/09/05 映画美学校第2試写室
かつて日本の産業を支えた石炭産業とそこで働いた男たち。
炭鉱で働く男たちと家族を取材したドキュメンタリー。by K. Hattori

 戦後日本の経済を復興させる、強力な牽引車となった石炭産業。しかしそれによって日本が経済的な豊かさを手に入れると、人件費の高騰によって国内産石炭は海外からの輸入炭や石油との価格競争力を失ってしまう。日本では石炭から石油へのエネルギー転換が進んだため、すっかりエネルギー源として現役を退いたかに見える石炭だが、こうした現象は日本やヨーロッパのような一部の国にのみ見られる現象で、全世界的な視点で見ると石炭の採掘量は今でも少しずつ増えているのだという。この映画は主として北海道の炭鉱について取材したドキュメンタリー映画だが、日本では次々閉山に追い込まれていく石炭不況をしり目に、そのすぐ近くにあるサハリンの炭鉱(かつて日本が開発した炭鉱)では、今でもロシア人炭鉱夫たちが昔ながらの方法で石炭を掘っている。石炭が現代社会で役目を終えたのではない。日本という国にある炭鉱で、日本人の炭鉱夫たちが割高につく石炭を掘り続ける意味が失われてしまっただけなのだ。つまりはそれが「産業構造の変化」ということだろう。最近ニュースでしきりと「痛みを伴った構造改革」という言葉が聞かれるが、日本の石炭産業労働者たちは、今から何十年も前から「構造改革」の矢面に立たされ、身を切られるような苦労を味わっている。

 まぁそんなこともあって、この炭鉱のドキュメンタリー映画も「産業構造の変化に翻弄される労働者たちの悲劇」という切り口にすることができただろう。そうするとNHKスペシャルみたいな、社会派のドキュメンタリーが出来上がる。しかしこの映画の監督はそうした炭鉱を巡る社会情勢にはあえて焦点を当てず、炭鉱で働く男たちや家族の姿に映画の焦点を当てていく。青年時代から炭鉱一筋で働いてきた老人の証言。働き盛りの年齢で炭鉱が閉鎖され、馴染みの炭鉱長屋から放り出された3人の男たちとその家族の物語。長年炭鉱で働いてきたことから、職業病であるじん肺に冒された老人と彼を支える妻の姿。藤本幸久監督は別の仕事で炭鉱町を訪ねた時、町の居酒屋に集まる元炭鉱夫たちの姿に感銘を受けてこの映画を企画したのだという。つまり監督は「炭鉱の歴史」や「エネルギー革命と石炭産業」などに最初から興味がないのです。彼が興味を持っているのは、炭鉱夫として生きた男たちの姿そのものにある。これは社会派ドキュメントではなく、炭鉱夫ひとりひとりの人間性とその人生にスポットを当てた人間ドキュメントです。

 映画の中で一番感動的なのは、「仲間たちの死」について語る男たちの姿だ。閉山された元炭鉱の跡地に手作りの墓標を立て、そこに線香をたむけ酒を振りまきながら突然声を上げて泣き出す老人。それまでにこやかに談笑していた元炭鉱夫とその妻たちが、死者62人を出したガス爆発事故の話になると急に無言になり、充血して真っ赤になった目でぽつりぽつりと救助活動の話を始めるくだり……。炭鉱夫たちはすぐ隣にある「死」を共有した戦友同士。それが彼らの絆を作っている。

2001年11月3日公開予定 BOX東中野
製作:「闇を掘る」製作委員会、映協、森の映画社
(上映時間:1時間45分)

ホームページ:http://www.mmjp.or.jp/BOX/

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