-less

2001/09/20 イマジカ第4試写室
生きる力を失った日本人はこれからどこに向かうのかなぁ……。
進むべき道を見失った日本人のためのファンタジー。by K. Hattori

 深刻な不況であることとはまったく無関係に、現代の日本人は明日進むべき道を見失っている。それは若者たちも同じだ。どんな仕事についても、どんな恋愛をしても、どんな生き方を選んでも、行き着く先はたかがしれているという予定調和な気分。すべてが決定づけられているわけではないけれど、未来はテレビの放送コードのような緩やかな縛りで一定の規制を受けている。はちゃめちゃや破天荒は許されない。波瀾万丈の大冒険なんてあり得ない。あっと驚く出会いも、ぞっとするような体験も、おそらく自分の身には起こらないだろう。世界にはたくさんの幸福や不幸があり、自分もこの先いろいろな幸福や不幸に出会うに違いない。でもそれが、これまで歩んできた人生を一変させるほどのインパクトを持つことはないだろう。もちろん交通事故に遭うとか、通り魔に襲われるとか、突然病気になるとか、空から飛行機が突入してくるという事件は起こりうる。しかしそうしたアクシンデントがあったとしても、我々はそれを新鮮な気持ちで受け止めることがもはやできない世界に住んでいる。それらは昔どこかで起きたことが、また起きただけ。この世の中に新しいことなんて何も起きない。すべては二番煎じ。自分自身の人生も、昔誰かが歩んだ人生の焼き直しに過ぎないのではないか……。

 専門学校生のレイナは恋人と別れたばかり。でもそれが彼女にどんな変化をもたらすわけでもない。レイナはいつも優しい微笑みを浮かべて、昨日と何も変わらない今日を生きている。学校の実地研修にでかけると両親に嘘を付いて家を出た彼女は、どこに行くあてもなく町に出る。友人の家に泊まり、その同棲相手の紹介で中古外車のディーラーと知り合ったり、テレビ局のディレクターとデートしたりする。「もはや語るべきドラマなど何もない」とうそぶくディレクターと別れ、中古外車ディーラーの嶋田に連絡を取ったレイナは、彼と短い旅をすることになる。じつは嶋田の会社は既に倒産し、彼は自分の会社のなけなしの金を持ち逃げしたのだという。監督・脚本はとしおかたかお。主演はCMモデルの河原輝美。ディレクターの矢野を田口トモロヲが演じ、嶋田を螢雪次朗が演じている。登場人物の中にはレイナの友人やその同棲相手、レイナの両親などもいるが、ドラマの中心になるのはレイナとふたりの中年男だ。

 二十歳そこそこの少女と中年男の話なのに、ここにはエロチックな雰囲気がまったくない。中年男たちにはぎらぎらした欲望がまったく見られない。タイトルの『-less』とは「〜がない」「〜ができない」という意味を示す英語の接尾語だが、この映画に登場する男たちは自分たちが何を求めているのかすら見失っている。身につけているものをひとつずつ捨てていけば、本当の自分が見つかるんだろうか。そこにはちっぽけな欲望のかけらでも残っているのだろうか。妻子と別れ、仕事を捨て、持ち物も金もすべて処分した嶋田は、最後に何かを見つけられたのか? 大人のためのファンタジックな寓話。

2001年11月3日公開予定 BOX東中野(レイト)
配給:ビジュアルアーツ

(上映時間:1時間47分)

ホームページ:http://www.visual-arts-osaka.ac.jp/

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ