ハッシュ!

2001/10/15 映画美学校第2試写室
橋口亮輔監督の最新作は抱腹絶倒のヒューマンコメディ。
ヒロインを演じた片岡礼子はやっぱりいいなぁ。by K. Hattori

 『二十歳の微熱』『渚のシンドバッド』の橋口亮輔監督最新作。ゲイの青年たちを主人公にしたドラマだが、青春映画というより新しいホームドラマという雰囲気を持つ作品になっている。正確には、これから新たにホームドラマの舞台を作ろうとしている男女の物語かな……。共に30代に差し掛かった栗田勝裕(田辺誠一)と長谷直也(高橋和也)は、最近知り合って同棲をはじめたばかりの同性愛カップル。同じく30代の独身女性・藤倉朝子(片岡礼子)は、たまたま入ったそば屋でカサを貸してくれた勝裕の目を見て「この人の子供が産みたい!」と思いこんでしまう。朝子は勝裕がゲイであることも、直也という恋人がいることも知っている。「セックスはしなくてもいいから子供だけほしい」と言う朝子に勝裕は面食らうが、子供が嫌いじゃない彼は彼女の言葉を聞いて「俺の子供かぁ……」なんてことを考え始めたりもする。もちろん直也にはそんな話が理解できっこない。「あの女は頭がおかしいんだよ!」と切り捨ててしまう。ところが他人の一途な思いをなかなか切り捨てられないのが、勝裕の美点であり優柔不断な点でもある。勝裕の前には彼を慕う同僚の女子社員(つぐみ)まで現れて、朝子に猛然とライバル心を燃やし始めるのだ。

 人間は30歳を過ぎた頃になると、自分の人生全体を「まぁこんなもんだろう」と値踏みし始める。学校を卒業して仕事にも慣れ、恋愛もそこそこ経験し、人付き合いについてもある程度自分の守備範囲というものが決まる。自分の未来が1本のレールのようにくっきりと見えないまでも、自分が左右に広げた手の範囲でしか未来を考えられなくなってくる。その時自分の手に持っているものが、その後の自分の未来を決めるのだ。この映画の主人公たちは、自分の両手を広げてみて「まぁこんなもんか」と感じている。でも同時に「それだけじゃ寂しいな」とも感じている。その寂しさを埋めるものは何なのか。この映画は「子供を持つ可能性」に、未来につながる何かを求めている。でもこれは、赤ん坊さえ生まれればみんなハッピーという映画ではない。赤ん坊の誕生というのは、「未知なる未来」「予想不能な明日」の象徴でしかない。その証拠に、映画の最後まで朝子は妊娠しないし、妊娠願望がある割にはやけに原始的な方法で子作りにチャレンジしようとする。こんなことで、本当に妊娠するんだろうか。たぶん妊娠しなくてもいいのだ。朝子が求めているのは「妊娠して母親になるかもしれない可能性」であり、その可能性を土台にして、勝裕や直也も含めた新しい人間関係を作ろうとしていく。先が見えないというのは不安なことだ。でも先が見えないからこそ、人間はそこに「希望」を見ることができるのだ。

 テーマの芯の部分には「豊かな社会の中で生きる現代人の孤独」というものがあるのだが、映画自体は全編が笑いに満ちている。なんといっても、この映画の会話のパワーはすごい。何気ない会話の数々が、観客の笑いのツボにどんぴしゃりとはまる快感がある。

2002年正月公開予定 シネクイント
配給:シグロ

(上映時間:2時間15分)

ホームページ:http://www.cine.co.jp/

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