東京ハレンチ天国
さよならのブルース

2001/10/16 シネカノン試写室
'60年代趣味、無国籍ギャング映画+GS+石井輝男テイスト。
ラストシーンには大笑い。こりゃすごい。by K. Hattori

 大阪芸術大学出身の本田隆一監督が、大学の卒業制作として作った作品。監督は1960年代が大好きなんだそうで、この映画にはそんな監督の個人的趣味が満載だ。ボスを裏切って組織に追われるようになった殺し屋が、売れないGSバンドのメンバーと交流を持つようになるという、なんだか意味不明な物語。たぶん話そのものはきわめて単純明解なのだろうが、この映画を意味不明にしている最大の要因は、録音状態がひどく悪くて役者たちの声がほとんど聞き取れないことにある。同録の台詞はモゴモゴ唸るばかりで、まったく何を言っているのかわからない。これは劇場での上映前にプリントを作り直して改善するとのことだから、ひょっとしたらこの試写でのみ生じた現象かもしれない。映画にはなぜか英語字幕が入っているのだが、台詞が聞き取りにくい場面は英語字幕を読まなければならないという、なんだかわけのわからない状態に追い込まれて疲れ果てた。これは英語字幕以前に、日本語字幕が必要だったかも。

 録音が悪くて台詞がまったく聞こえないという欠点を除けば、この映画は結構面白い。物語はともかく、シーン毎のカット割りや編集にスピード感があるのがいい。バンドの演奏シーンはノリがいいし、会話シーンはまた別のリズム感が感じられる。(それをすべてぶち壊しにするのが、モゴモゴした台詞なのだが……。)いろいろな面で監督が映画作りそのものを楽しんでいることが、画面の端々から感じられるのだ。これが観ていて気持ちいい。基本的にはひどくバカげた映画なのだが、この映画が気の毒なのは、この映画がただバカなだけでなく、バカでしかも貧乏くさいこと。バカなだけなら楽しめても、これが貧乏くさくなるともう駄目。でもこの映画は、その貧乏を苦にしない若々しさに満ちあふれている。それがこの映画の駄目さを救っているのだ。

 主人公のオチコボレ殺し屋を演じているのは、『どんてん生活』のリーゼント男・山本浩司。GSバンドの紅一点ボーカルには安田美香。そして主人公を追いつめる組織のボスには映☆画次郎(驚異の新人)。この映☆画次郎というのはある有名俳優の異名なのだが、それが誰かは観て驚け。しかしこれは「カメオ出演」とは言わないと思うけどなぁ……。これでいいのかプレス資料。このボスの登場シーンは、音声がへなちょこでも十分にわかるし面白い。それはこの男の言葉がそもそも聞き取りにくくて何を言っているのかよくわからないという設定だからで、それを補う身体の動きがもう無茶苦茶。

 この映画は今年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭で、オフシアター部門のグランプリを受賞している。おそらく評価の理由は、映画の最後の2分ほどに集約されるのだ。正直言ってこの映画が上映されていた試写室は、映画の中盤まで一部の身内らしき人たちが笑っていただけで、あとは「なんだか困ったぞ」という空気だった。それがラストシーンでは、溜まりに溜まったフラストレーションがはじけて爆笑の渦! これはすごい。

2001年12月8日公開予定 中野武蔵野ホール
配給:ビターズ・エンド、スリーピンsleepin'
宣伝:スリーピンsleepin'

(上映時間:1時間20分)

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