ABCアフリカ

2001/11/07 映画美学校第2試写室
イランの映画監督アッバス・キアロスタミが見たウガンダの現実。
子供たちの笑顔が印象に残るドキュメンタリー映画。by K. Hattori

 『桜桃の味』『風が吹くまま』のアッバス・キアロスタミ監督の新作は、内戦とエイズ禍から立ち直ろうとするウガンダを取材したドキュメンタリー映画。国連の専門機関であるIFAD(国連国際農業開発基金)の要請でウガンダのNGO組織UWESO(ウガンダ孤児救済のための女性運動)を取材したものだが、単なるPR映画ではなく、現地を取材するキアロスタミ監督の個人的な視線が常に感じられる作品に仕上がっている。撮影はすべて小型のデジタル・ビデオカメラで行われており、その機動性と被写体に精神的負担をかけないコンパクトさを大いに気に入ったキアロスタミ監督は、『私はもう35mmのフィルムには戻らないでしょう』とまで言っている。この作品はキアロスタミ監督が初めてアフリカを取材したという以外にも、監督の映画製作に大きな変化を生み出すきっかけになる作品になるかもしれない。

 ウガンダは内戦とエイズで多くの人が亡くなり、両親もしくは片親を失った孤児たちが激増。人口2100万人の国で、なんと1割近い200万人が孤児というとんでもない事態になっているらしい。内戦にしろエイズにしろ、亡くなるのは働き盛りの男ばかり。15〜40歳の男たちがバタバタと死んでいき、そこに一種の世代の断絶が生じてしまうという危機状況だ。ウガンダでは女性が働いて自立するという概念が存在しなかったが、男が軒並みいなくなってしまうのだから女が自分たちで身の振り方を考えなければならない。UWESOはそんな女性たちを支援する組織で、主な活動は女性たちに貯蓄を奨励すること。働いて金を得ても、それを蓄える習慣がなければ生活の安定は図れない。貯蓄をベースにした生活の安定が合ってこそ、はじめて子供たちも健やかに成長していくことができるようになる。

 映画はそんなUWESOの活動を紹介してはいるが、この映画が本当に描こうとしているのは組織の活動紹介ではない。キアロスタミ監督の視線は、この国の未来を担う子供たちに向けられている。親を失った子供たちは多いし、エイズの魔の手は子供たちにも及ぶ。そんな暗い現実にも目を背けることはできないが、それでもキアロスタミ監督は、子供たちの視線の向こうに明るい未来への希望があることを信じている。行く先々でカメラの周囲に群がる子供たちの笑顔こそが、この映画の最大の見ものだと思う。映画に描かれている現実は必ずしも生易しいものではないが、映画に登場する子供たちの笑顔を観ていると、そんな辛い現実をふと忘れてしまう。

 そもそもウガンダがなぜこんな状態になっているのか。他の国に比べてウガンダ政府の取り組みはどうなのか。歴史や民族といった大きな社会問題に、この映画はあえて触れない。「歴史が」「国が」「国際社会が」といった主語で何かを語っても、それはウガンダで現実に生きている人たちに何の意味もない。キアロスタミはウガンダで生きる人々の中に飛び込み、「私が」「我々が」という物語を描き出そうとしている。

(原題:ABC AFRICA)

2002年1月中旬より公開予定 ユーロスペース
配給:ユーロスペース

(上映時間:1時間24分)

ホームページ:http://www.eurospace.co.jp/

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