沈みゆく女

2001/11/09 映画美学校第1試写室
『キスト』のリン・ストップケウィッチ監督とモーリン・パーカーの新作。
映画終盤の種明かしにはあっと驚かされた。by K. Hattori

 監督はリン・ストップケウィッチ。主演はモーリン・パーカー。死体に恋する若い女を描いた映画『キスト』の監督・主演コンビによる新作は、前作とまったく別アプローチでまたしても凄い映画になっている。物語の舞台は、カナダ・バンクーバーの田舎町。ドブ臭い小さな川のそばに建つ小さなモーテルで、受付の仕事をしているレイラという美しい女が主人公。彼女は夫がいる身でありながら、毎日のように泊まり客に性的なサービスを提供して小銭を稼いでいる。彼女の噂を聞きつけて、あちこちから彼女目当ての男性客がモーテルに集まってくる。ある日彼女は、ゲイリーという男性客にいつものサービスをしようと部屋を訪れるが、彼から乱暴な扱いを受けてショックを受ける。だが翌日になって平謝りに謝る彼の姿を見て、彼女は彼にむしろ好感を持つ。その晩、別の客に暴力を受けたレイラはゲイリーの部屋に逃げ込み、激怒したゲイリーは相手の客をぶちのめす。こうしてレイラとゲイリーの間に、金銭抜きの信頼関係と交流のようなものが芽生えてくる。ゲイリーはレイラに「一緒に逃げよう」と言うのだが……。

 ヒロインのレイラがなぜ男たちに性的サービスを行っているのか、その理由が大きなミステリーとしてドラマの推進力を生み出す。生活が貧しいわけではない。彼女自身が、特別何かしらの金を必要としているわけでもない。多くのリスクを冒してまで、なぜ彼女はこんな後ろ暗い仕事を続けなければならないのか。こうしたレイラの姿と平行するように、この映画にはもうひとりの主人公とでも言えるような少女が登場する。彼女はレイラの務めているモーテルのすぐ近くに住んでおり、レイラとは顔なじみ。少女の母親は夫に隠れて夫の弟と浮気しており、少女もそんな家族の危うい関係に気づいている。夫に隠れて不貞を重ねる主人公レイラと、母親の浮気で家庭崩壊の危機目前にいる少女。ふたつの対照的な物語を対比させることで、この映画は何を描こうとするのか。それがこの映画の第2のミステリーになる。

 映画終盤ですべての真相が明らかになった時は、かなりの衝撃を受ける。それまでのドラマの前提が一気に崩壊するショックにしばらく混乱するのだが、その混乱を巧みに整理して観客にすべてを納得させてしまうあたりは、脚本も自ら書いているストップケウィッチ監督のすごさだと思う。映画自体にかなり独特のムードがあるので、そのまま一切の謎解きや解決を用意しなくてもそれなりに観られる映画にはなると思うのだが、そうした場所に逃げていかないのは偉い。というよりこの監督は、そもそもが娯楽映画指向なのかもしれない。明確なストーリーラインがまずきちんとあり、その上にネクロフィリアや主婦売春といったセンセーショナルなモチーフと、潤んだような独特の映像が乗っかっているのだろう。体裁はアート系作品ぽいのだが、ストーリー重視の娯楽作品としても楽しめる映画だ。主演のパーカーは、前作『キスト』以上に素晴らしい表情を見せている。

(原題:Suspicious River)

2002年陽春公開予定 シネ・アミューズ
宣伝・配給:シネカノン

(上映時間:1時間32分)

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