私が女になった日

2001/12/06 TCC試写室
モフセン・マフマルバフ夫人マルズィエ・メシュキニの監督デビュー作。
キシュ島を舞台にした3話オムニバスのドラマ。by K. Hattori

 話題作『カンダハール』が間もなく日本でも公開されるイランの映画監督モフセン・マフマルバフ監督の妻、マルズィエ・メシュキニの監督デビュー作。マフマルバフ監督の娘サミラも『りんご』『ブラックボード/背負う人』などで知られる映画監督だが、サミラ自身はマフマルバフ監督と前妻の間に生まれた3人の子供のひとり。なんでも前妻は事故死したのだそうだ。この映画はイランのリゾート地キシュ島を舞台にしているが、ここですぐに思い出すのは同じキシュ島を舞台にした『キシュ島』の物語という映画。これは3人の監督による3話オムニバスで、マフマルバフ監督は「ドア」という短篇映画を作っていた。『私が女になった日』も3話オムニバスだが、こちらはマルズィエ監督ひとりの作品だ。

 3つの物語には「ハッワ」「アフー」「フーラ」というサブタイトルが付けられているが、これはすべて物語に登場する女性の名前だ。第1話「ハッワ」は9歳の誕生日を迎えた女の子の物語。イランの伝統文化の中では、女の子が9歳になると大人の女性として扱われ、近所の男の子と自由に遊ぶこともできなくなる。ハッワは誕生日を迎えて母親にチャドルを買ってもらい、めでたく大人の仲間入りを果たす。それは昔から親しく遊び回っていた幼馴染みハッサンとの別れも意味している。この物語では「正午までなら遊んでいい」と言われたハッワが、時間を調べるため土の上に棒を立てて日時計にするシーンが印象的。長い影が少しずつ短くなり、それがハッワの子供時代の終わりを象徴するのだ。

 第2話「アフー」は夫と別れて自転車レースに出場した女と、それを馬で追いかけて何とか思いとどまらせようとする男たちの物語。疾走する自転車。蹄を轟かせ砂塵を巻き上げながらそれを追う馬。それらを移動撮影で補足し続けるカメラ。この映画のカメラは一瞬たりとも静止しない。常に移動撮影なのだ。結婚という伝統的価値観から逃れようとする女が、黒い民族衣裳のままモトクロスタイプのカラフルな自転車で隊列を組んで走る風景はかなりシュール。女と自転車の組み合わせは伝統からの離脱を象徴し、男たちと馬の組み合わせは伝統文化を象徴しているのだろう。まるでアクション映画。

 第3話は近代的な空港と、商品があふれるバザールから始まる物語。老女フーラがバザールで多くの家財道具を買い集め、それを海岸にずらりと並べるシーンは壮観。ありとあらゆる物がそろったのに、老女の指には買物し忘れた物があることを示す紐が1本残される。大事な買物を忘れている老女だが、彼女は何を買い忘れたのかが思い出せない。あらゆる消費財に囲まれ、特に何かが必要だと切実に感じているわけでもないのに、「まだ買い足りない」と不満そうな老女。使うあてのない家財道具に囲まれ、どこか不満そうな老女の姿は、そのまま現代人の姿そのままかもしれない。この最後の物語で、バラバラだった3つのドラマはひとつにつながる。思わずドキドキさせられるラストシーンだった。

(英題:THE DAY I BECAME A WOMAN)

2002年2月上旬公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:ギャガ・コミュニケーションズ アジア・オセアニア映画グループ
宣伝:カーニバル・フィルムズ

(上映時間:1時間18分)

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/

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