ステイト・オブ・ドッグス

2001/12/07 TCC試写室
モンゴルの今を犬の視点で描いたベルギーとモンゴルの合作映画。
元気がなくて眠くなる映画だったなぁ……。by K. Hattori

 モンゴルの首都ウランバートルで、野犬狩りに殺された一匹の犬がいる。その名はバッサル。野良犬なのに名があるのは、彼がかつて人間に飼われていたからだ。殺された犬は乾燥した土の上に打ち捨てられ、静かに風化し土に帰るまで放置されるのがモンゴル流。バッサルは風に吹かれ、砂埃をかぶりながら、自分が死に至るこれまでの生き方を、死んだ後に約束されている新しい生を思う……。犬が登場する映画は多いが、犬を主人公にして、犬のモノローグで全編が進行していくという映画はあまり観たことがない。しかもこの映画、アニメではなく実写である。映画の中にはモンゴルの遊牧民たちの生活が描かれ、同時にスラム化しつつある都市部の実態も描かれる。犬の視点から見た世界は矛盾と不条理に満ちている。死にかけた犬の思い出話という設定ゆえかもしれないが、視点はあちこちをさまよい、足下がまったく定かになっていない。これは本当に犬の物語なのか。それとも詩人が語る虚構のドラマなのか。それとも出産を控えた母親の見た幻影なのか……。

 フィクションともドキュメンタリーともつかない不思議な映画。犬の語る物語自体は当然フィクションなのだが、そこに登場する個々のエピソードはドキュメンタリーの匂いがする。自作の詩を吟唱する詩人。遊牧民の家族。道ばたの犬の死体。出産を迎えようとする妊婦。こうした要素はそれぞれ「正真正銘の本物」であろう。それらをまとめ上げる犬の視点だけが、この映画をフィクションにしているように見える。監督はベルギーのドキュメンタリー監督ピーター・ブロッセンと、モンゴルのジャーナリストであるドルカディン・ターマン。この映画は4年かけて作ったというから、その間にふたりはこつこつと各種の映像素材を撮り溜め、最終的にそれを犬の視点というアイデアでまとめ上げたのだろう。

 この映画はモンゴルの現代をかなり批判的に描いていて、しばしば日本のテレビ番組に取り上げられるような「雄大な自然の中で素朴な人々が和気藹々と暮らしている」という描写はあまり見られない。『白い馬』や『ウルガ』といった映画にある、いかにも「モンゴルだ〜!」という描写は意図的に抑えられている。それはまったく勇壮さのかけらも感じられないナーダムの描写などでも明らかだ。ここに登場するモンゴル人は、遊牧民としての伝統的な暮らしを追われ、都市に流入してきた根無し草の漂流者にすぎない。こうしたモンゴル人の姿を、この映画は1匹の犬で象徴しているのだろう。もちろん最後に希望の芽は残される。都市に住む若い母親から生まれてくる赤ん坊が、モンゴルの未来とそれを担う若い世代を象徴しているのだと思う。

 作り手としてはかなり意欲的なものを狙ったのだろうが、これは観客にかなりの忍耐と根気を要求する映画だ。職業的に映画を観ている根性なしの僕は、途中で幾度か意識が遠のいた。覇気のない映像に、どんよりと響く男性ナレーション。これはすごく眠くなる。

(原題:STATE OF DOGS)

2002年3月中旬公開予定 ユーロスペース
配給:スローラーナー

(上映時間:1時間28分)

ホームページ:http://www.slowlearner.co.jp/movies/state_of/index.shtml

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