光にむかう3つの夢想曲

2001/12/11 松竹試写室
ロシアで映画の勉強をしてきた日本人監督・西周成の短編3本。
すいません。真ん中の1本はほとんど寝てました。by K. Hattori

 モスクワの全ロシア国立映画大学(VGIK)で映画の勉強をしていた日本人・西周成が学生映画として作った3本の短篇作品を、オムニバス風にまとめて一挙上映するプログラム。どうやら「芸術映画」が苦手らしい僕は、こういう理知的な作品に本能的な拒絶反応を起こしてしまうらしい。ひとつひとつのカットやシークエンスが、どれも並々ならぬ緊張感をはらんでおり、観ているとそれだけでくたびれてしまうのだ。目の前で揺れ動く懐中時計を凝視していると、いつの間にか半睡眠半覚醒の催眠状態に陥ってしまうように、僕もこの映画を観ながら途中ですっかり意識を失ってしまった。上映されたのは『薔薇の香り』『トランペットを持った天使』『The Last Sunset』の3本だが、『トランペット〜』についてはほとんど何も覚えていない。そんなわけで、以下に『薔薇〜』と『The Last Sunset』についてのみ、簡単な内容と感想を書いておく。

 『薔薇の香り』は西周成監督の最初の作品だという。古びた建物の立ち並ぶ町を訪ねたアジア系の青年(俳優は韓国人だという)が、自分の父の面影を探してさまよい歩く。やがて彼はひとりの美しい女に出会うのだが……。モノクロで撮影し、カラーポジにプリントしたという作品で、全体にほんのりと色が感じられる。特に映画の後半はいわゆる「セピア調」の映像になる。全編に青年のナレーション(監督自身による吹き替え)が被さっているのだが、そのナレーションのトーンと映像のコントラストが奇妙な化学変化を起こして、まるでホラー映画におけるショッカーシーン直前めいた不気味な静寂を生み出す。森の木の陰から女が姿を現すシーンなどは、まるでホラー映画そのもの。僕はここで全身の皮膚が粟立つような感覚を味わった。20分。

 『The Last Sunset』は妻を事故でなくした男と、死んだ妻の父親の交流を軸にしたドラマ。これは今回上映された中で最も長い38分の作品。男の夢の中に登場する妻の姿や風景の美しさと、男が暮らしている部屋や町の風景との対比。思い出の中で永遠に男と愛し合う妻と、男を愛する生身の女の対比。男と現実の接点は、義父のもとを訪ねて亡き妻の思い出について語り合うこと。それによって彼は、「妻の死」と「生きている自分」を世界の中に位置づける。だが義父が末期ガンにかかって余命幾ばくもないと知ることで、男の視点は急速に現実との接点を見失い、むしろ夢の中へと逃避していく。映画の最後に、彼は夢と一体化したかに見える。

 『薔薇の香り』は青年が父親を探す旅を描いており、『The Last Sunset』では愛する者を失った男たちの悲しみがモチーフになっている。プレスの解説によれば、第2作の『トランペットを持った天使』は、父親を亡くした少女を主人公にした物語だという。この3作はすべて「愛すべき人」「人生の同伴者」を失った人々をテーマにしているのだ。西監督はこの3本について「ロシア映画ではなく普遍的な映画だ」と言っている。

2002年1月19日公開予定 BOX東中野
配給:(株)グループ現代

(上映時間:1時間12分)

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