快盗ブラック・タイガー

2001/12/17 メディアボックス試写室
お尋ね者の盗賊団幹部と良家の令嬢の悲恋物語を、
超モダンな映像表現で描くアクション・コメディ。by K. Hattori

 1950年代のタイ農村地帯。良家の子女であるラムプイと、貧しい農民の息子ダムは幼馴染みであり、青年になった今は身分を越えて互いに愛し合う仲だった。駆け落ちを約束したふたりだったが、ダムはある事情で彼女と約束した場所に行けなかった。彼は盗賊団の一員“ブラック・タイガー”なのだ。泣きながら家に戻るラムプイは、翌日親の決めた男と結納を交わすことになっている。その男とは、盗賊団撲滅に執念を燃やすガムジョン警部だ。かくして美女ラムプイを巡って、盗賊ブラック・タイガーと鬼警部ガムジョンが対立することになる……。物語自体は古風なラブストーリーだ。少年時代のダムがラムプイを助けるために額に大きな傷を負うという設定など、梶原一騎原作でかつて大ヒットした(映画化もされた)人気漫画「愛と誠」を思い出させる。

 物語は「愛と誠」だが、アクション・シーンのタッチはサム・ペキンパーの西部劇。盗賊団のアジトを警官隊が取り囲んで大銃撃戦が繰り広げられるシーンなどは、砂塵の中でバタバタと人が倒れて、まるで『ワイルドバンチ』なのだ。この映画、他にもいろいろな要素がぎっしり詰め込まれている。物語はベタベタのメロドラマで、アクションはハードなペキンパー・タッチなのに、全体としてはユーモアタップリのコメディ調。全体の色遣いは退色しかけたテクニカラー風。書き割りの前での芝居、合成などさまざまな特殊効果を使って、登場人物たちの心象風景をビビットに画面に反映させていく。監督・脚本のウィシット・サーサナティヤンは、映画『ナンナーク』のシナリオで知られるが、監督としてはこれがデビュー作。CMのディレクター出身だというあたりに、この映画の独特な映像センスの源流を感じる。確信犯的にアナクロニズムに徹しつつ、そこに現代風の映像表現や斜に構えたユーモアをぶち込んでいる。これは懐メロを現代風のアレンジで歌っているようなもの。懐古調でありながら、全体としては紛れもない現代の映画なのだ。

 この映画がメロドラマになっているのは、もちろん半分ぐらいはパロディのつもりで、古くさいお涙頂戴映画の骨組みを借りてきているのだろう。それは映画の序盤からありありとわかる。こうした悪のりをニヤニヤしながら楽しみつつ、それでも映画をずっと観ていると、このメロドラマにすっかり引き込まれてしまうのには参った。この感覚は何かに似ている。そうだ、'80年代の大映ドラマだ。「スチュワーデス物語」や「少女に何が起こったか」と同じノリなのだ。物語のノリは大映ドラマで、映像センスはCMばりの超モダンな垢抜けぶり。アクションシーンはペキンパー。これだけでも、この映画がいかにオモロイ作品かがわかるというもの。

 往年の映画を模したアナクロ演出を、劇中劇として映画の一部に取り込む演出はよく見かける。例えば『ザ・メキシカン』にもサイレント映画風のシーンが登場したりする。しかしそれを映画全編で押し通すとは……。作り手の度胸には本当に感心してしまった。

(英題:Tears of the Black Tiger)

2002年春公開予定 シネクイント
配給・宣伝:日活、トライエム

(上映時間:1時間54分)

ホームページ:http://www.cinema-angel.com/blacktiger/

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