スリープレス

2002/01/15 映画美学校第2試写室
鮮血ホラーの巨匠ダリオ・アルジェントの正調スリラー映画。
新しさはないが流血描写の冴えは相変わらず。by K. Hattori

 『サスペリア』『フェノミナ』などの鮮血ホラー作品で知られる、ダリオ・アルジェント監督の最新作。今回の作品はオカルト・ホラーではなく、連続殺人鬼と老刑事の対決を描いた比較的正調のサスペンス・スリラー映画になっている。アルジェント作品としては、『サスペリア2』の系統のB級サスペンス。もっともこの映画は「謎解き」が主眼ではない。一応犯人が誰なのかは最後まで伏せられているし、映画をまだ観ていない人に犯人を特定したりその目的を明かしてしまうのはルール違反だろうが、映画が目指しているのがグロテスクな流血描写の連続にあることは明らかだ。『羊たちの沈黙』や『セブン』以降、この手の連続猟奇殺人映画に対してハリウッドの大手映画会社が大金を投じるようになったが、アルジェントこそがこのジャンルの開拓者であることは間違いないだろう。その彼が今はイタリアで、ハリウッドのサイコサスペンス映画のコピーのような作品を作っているのが少々寂しいような気もするけど……。まぁこれはこれでしょうがないのかもしれない。

 物語の舞台は北イタリアの都市トリノ。1983年に3人の犠牲者を出した通称「小人殺人事件」は、警察に追いつめられた容疑者が自殺することで幕切れを迎えた。だがそれから17年たった時、「小人殺人事件」の犯人は再び犠牲者を血祭りに上げはじめる。被害者のかたわらに置かれた切り紙の動物は、犯人からの何かのメッセージなのか。かつて事件を捜査していた老刑事モレッティと17年前の事件で母を殺された青年ジャコモは、警察とは別の独自捜査を開始するのだが……。

 犯人が子守歌の歌詞に合わせて殺人を犯すというアイデアは、クリスティや横溝正史などにも似たような例があるし、映画『セブン』で引き合いに出された「七つの大罪」も似たようなものだろう。この映画のユニークさは、犯人が歌詞に合わないところでも平気で殺人を犯すということかもしれない。犯人は犯行の口封じに人を殺し、逃亡するために人を殺す。映画の中で殺される被害者のうち、子守歌のとおりに殺されたのは半数に満たないのではないだろうか。これは恐い。歌詞の通りに人を殺すだけなら被害者の数は限られているし、危険を避けたり身を守るすべも考えられそうだ。ところがこの犯人は、それとはまったく無関係なところでも平然と人を殺してしまうのだ。この乱暴さには参るなぁ……。

 大型ナイフで指を切り落とす、金管楽器で顔面をめった刺しにする、死体の爪を剥ぐとき指先までハサミで切断するなど、痛そうな描写が次々に登場する。こうした生理的感覚への訴求センスは、まさにアルジェント節だろう。目新しくはないが、やはりぞっとする。

 ミステリーとしてはアラばかりが目立つ作品。凶器の運搬方法、犯人の侵入方法や逃走経路などが、映画の中ではまったく考慮されていない。犯人は神出鬼没なのだ。そのくせ、犯行現場につまらない落とし物をしたりするオッチョコチョイな奴だったりするしなぁ……。

(原題:NONHOSONNO)

2002年3月公開予定 新宿武蔵野館(レイト)
配給:日本コロムビア 宣伝:FREEMAN

(上映時間:1時間57分)

ホームページ:http://www.columbia.co.jp/

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