活きる

2002/01/17 メディアボックス試写室
チャン・イーモウがコン・リーと一緒に作った1994年の映画。
'40年代から'70年代までの中国を描く。by K. Hattori

 '94年のカンヌ映画祭で、審査員特別賞と主演男優賞を受賞した、チャン・イーモウ監督の日本未公開作品。監督のフィルモグラフィーの中では、『秋菊の物語』と『上海ルージュ』の間に位置づけられるわけだが、この映画がなぜ今まで日本で公開されなかったのか不思議なくらいに完成度の高い作品だ。デビュー作『紅いコーリャン』から何本かの作品で、革命前の封建的な中国を独特の映像美で描いてきたチャン・イーモウ監督は、『秋菊の物語』で作風を大きく転換させる。『活きる』は明らかにその延長上にある作品だ。しかしそれがかえって、当時の日本の映画会社や映画ファンにそっぽを向かれてしまったのかもしれない。『あの子を探して』や『初恋のきた道』を経験している今の観客にとっては、むしろ『活きる』の方がよほど親しみやすいけど……。

 物語は1940年代に始まり、10年ごとを節目として、その時々の中国の社会を庶民の視点から描いていく。'40年代は封建的な中国社会がまだ残っていた時代であり、それは国民党と共産党の内戦によって壊れ、やがて共産党主導で新しい中国が生まれる。'50年代は毛沢東の指導下で、全中国人が一丸となった大躍進政策の時代。子供から老人までが農工業の増産にかり出され、不眠不休で働きづめに働いた。'60年代は文化大革命。そして落ち着きを取り戻した'70年代……。この映画で描かれているのは、中国では「革命」という美名のもとに、多くの無辜の市民が犠牲になったという事実だ。国民党と共産党の内戦によって、いかに大勢が犠牲になったか。'50年代の大躍進政策で、いかに多くの国民が犠牲を払ったか。'60年代の文化大革命が、社会に対していかに大きな傷跡を負わせたか。この映画は露骨に口にこそ出さないが、主人公の人生を通して中国の「革命」を批判してみせる。文化大革命が批判されるのは当然にしても、その前の大躍進政策も、'40年代の大胆な社会改革も、すべてが批判の対象になっている。

 映画には庶民の暮らしの細部がこと細かく描写され、主人公一家の喜怒哀楽に観客まで一喜一憂する。しかし映画を観ていれば、福貴(フークイ)という主人公の行動を支えている指針が「体制への恐怖」にあることは明らかだ。博打で家屋敷を手放していたことで、資産家として処刑されることを免れた福貴は、共産党軍からもらった伝票を額に入れて部屋に飾り、権力に対して徹底して従順であることが生き抜くすべだと確信する。映画には描かれていないが、おそらく他の中国人も多かれ少なかれ同じだろう。彼らは生きるために、権力の言いなりになる。人間はそうした不自由さや強制の中でも、それぞれが小さな喜びや楽しみを見つけることができる。

 文化大革命時代の描写は痛ましくて見ていられないくらいだった。婚約の結納品が毛沢東語録。結婚式の記念写真も、毛沢東語録をそれぞれが手に持ってニッコリ。毛沢東語録は笑えば済むけど、病院の場面はグロテスクですらあった。ほんの30数年前の話です。

(原題:活着)

2002年陽春公開予定 Bunkamuraル・シネマ
配給:角川書店、ドラゴン・フィルム

(上映時間:2時間11分)

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