フロム・ヘル

2002/01/21 渋谷ジョイシネマ
切り裂きジャック事件を映画の中で忠実に再現しようとする作品。
ミステリーとしてもスリラーとしても面白くない。by K. Hattori

 1888年にロンドンで起きた「切り裂きジャック事件」は、世界の犯罪史に残る連続猟奇殺人事件。この事件をモチーフにした小説や映画は多数作られているが、本作はそんな「切り裂きジャックもの」の最新作だ。映画の中ではジャック事件を事細かに再現し、真犯人としてある人物を指名する。ただしこの「真相」は過去無数に取りざたされた「仮説」を数種類組み合わせたものをベースとしているため、取りたてて目新しさはないかもしれない。ジャック事件について少し知っている人は、途中で犯人の目的がわかってしまう。そうなると、もう犯人が誰であっても構わなくなってしまうのが、この映画にとって最大の問題点かもしれない。

 物語はジョニー・デップ扮するフレッド・アバーライン警部と、ヘザー・グラハム演じる娼婦メアリ・ケリーを中心に進行していく。このふたりは実在の人物で、ジャック事件の実録ものを一度でも読んだことのある人にとってはお馴染みの人物。メアリ・ケリーはジャック事件最後の犠牲者だ。こうした観客側の予備知識を使って、この映画は観客を意図的にミスリードしていく。物語は基本的に実在のジャック事件をなぞっていくが、ジャックが一晩に2人を殺した事件をクライマックスに持っていくなど、意図的に事実と変えている部分もある。原作はアラン・ムーアの同名グラフィックノベル。監督は双子の兄弟アレン&アルバート・ヒューズ。

 デップやグラハム以外にも、イアン・ホルム、ジェイソン・フレミングなど出演者の顔ぶれは豪華。当時の風俗を美術や衣装で入念に再現するなど、映画製作の手法としてはたっぷりと手間とお金をかけている。しかしこの映画は、ミステリーとしてもスリラーとしても、きわめて中途半端で物足りないのだ。切り裂きジャック事件は実在の事件であり、被害者は5人の娼婦だとたいていの人は知っている。したがって捜査を陣頭指揮するアバーライン警部は、ジャックから直接被害を受けることがない安全地帯にいる。映画の序盤から、この連続殺人が何かの「口封じ」を目的としていることは明らかであり、そこには警察上層部や王室・貴族などの上流階級が深く関わっていることも明らかだ。娼婦たちは町のヤクザが自分たちを殺そうとしているに違いないと怯えるのだが、その怯えが無意味であることを観客は最初から知っている。これは脚本自体に難がある。

 警部を「犯人と被害者」という直接的な関係の当事者に加えるため、この映画では警部とメアリ・ケリーのロマンスという無理な設定を持ち込む。警部はまともな紳士ではなく、阿片窟に入り浸る中毒者でもある。しかしホワイトチャペルの娼婦は、花売り娘のイライザとは違うのだ。このロマンスには無理がありすぎる。警部が幻覚の中で不思議な霊感を得るという設定も、物語の中で何の意味も持っていない。出来損ないの『デッドゾーン』みたいで、かえって話を混乱させるだけなのではないだろうか。最後まで釈然としない映画でした。

(原題:FROM HELL)

2002年1月19日より公開 日比谷映画他・全国東宝洋画系
配給:20世紀フォックス

(上映時間:2時間04分)

ホームページ:http://www.foxjapan.com/movies/fromhell/

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