FILAMENT
フィラメント

2002/01/29 映画美学校第2試写室
辻仁成監督の最新作。『ほとけ』の双生児のような映画。
風呂屋を改造した写真屋がなかなか面白い。by K. Hattori

 『千年旅人』や『ほとけ』など、地味ながらも作家色の強い映画を立て続けに発表している辻仁成監督の最新作。僕は辻監督のデビュー作『天使のわけまえ』は観ていないのだが、『千年旅人』から本作に至るすべての作品に共通している独特の世界観が結構気に入っている。『千年旅人』を観たときはまったく面白く思わなかったのだが、その後の2作を観た後で『千年旅人』を観直すと、また違う印象を持つかもしれない。

 辻監督の映画では、舞台となった町の中で通常のモラルや常識がそのままでは通用しない。そこには警察もなく、学校もなく、役所もない。我々が知っている「社会のルール」は存在しない。描かれているのは間違いなく「現代の日本」なのだが、そこに登場する社会は限りなく弱肉強食の「原始社会」に近い。そこでは人々が自分の内的衝動のままに行動し、相互の人間関係の中でその社会特有の規範が生まれたり、互いに利害を調節しあったりする。力の強いものが弱いものを意のままに動かし、弱いものはあっと驚くような手段で強者に反撃する。『千年旅人』はそんな凄惨な社会を描いてはいないが、世界観そのものは他の2作と共通しているようだ。そして『ほとけ』と『FILAMENT』は双生児のように似ている。

 この映画は壊れた家族の物語だ。主人公・今日太は、癇癪持ちですぐに切れる性格から「フィラメント」というあだ名で呼ばれている。職場でも喧嘩ばかりしていて、少しも長続きしない。いい年して髪を金髪に染め、悪ガキ仲間との縁も切れないロクデナシだ。家では父親が写真館を経営しているが、この父も女装して写真を撮るのが趣味という変態オヤジ。妹は以前ヤクザと結婚していたが、今は出戻って実家におり、夜ごとにベッドを抜け出して近所を徘徊する夢遊病癖がある。そして母親は、10年前に若い男と駆け落ちしたまま音信不通だ。この家族は、家族全員が普通じゃない。家族の成り立ち自体も普通じゃない。それでも家族として、緩やかながらもひとつのまとまりを形成しているのは、彼らが同じ屋根の下で暮らしているからだろう。写真館とギャラリーと喫茶店と自宅を兼ねる、古い銭湯を改造した建物。この建物の雰囲気が、なかなか面白い。『ほとけ』に登場した船員会館に匹敵する、この映画のもうひとつの主役だ。

 話自体はかなりぎくしゃくしていて、主人公の行動にも釈然としないところが多い。しかしこの映画、登場するキャラクターは抜群に面白いのだ。セルフポートレイトで有名な森村泰昌が、実生活そのままに女装姿を写真に写す写真館の主として登場。「お父ちゃんは変態やない。変なだけや!」は名台詞。井川遥演じる妹・明日美も、清潔で健気で、それでいて哀れでなかなかよい。ただこうした人物たちの会話などが、いまひとつしっくり噛みあっていないような気がする。いつもは上手い村上淳も、今回は精細がなかった。たぶん映画のどこかに、ボタンを掛け違えているところがあるのだろう。不思議な雰囲気のある映画なので、ちょっと残念だと思う。

2002年陽春公開予定 新宿ジョイシネマ・他
配給:アートポート、アースライズ

(上映時間:1時間48分)

ホームページ:http://www.artport.co.jp/

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