マッリの種

2002/02/05 映画美学校第2試写室
大物政治家を自爆テロで暗殺しようとする女性テロリスト。
モデルになったのはラジーブ・ガンディー暗殺事件。by K. Hattori

 1991年5月21日。遊説中のインド首相ラジーブ・ガンディーは、マドラス近郊の選挙演説会場で群衆の熱烈な歓迎を受けていた。やがてひとりの女性が彼に近づき、うやうやしく足下にしゃがみ込んで最敬礼する。インドではそれが目上の者に対する最高の敬意の示しかたであり、選挙運動中にガンディーの周辺ではよく見かける光景だった。だが違ったのは、この女性が身体に大量の爆弾を巻き付けていたこと。彼女はガンディー暗殺のために送り込まれた自爆テロリストだったのだ。爆弾はガンディーの足下でテロリストもろとも炸裂し、ガンディーは頭部を吹き飛ばされて即死。テロリスト本人はもちろんのこと、周囲にいた無関係の人々十数人も犠牲になった。政府はその手口から、スリランカの独立を求めるタミル人組織「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」の犯行と断定したが、真相は謎のままだ。

 この映画『マッリの種』は、そんな「ラジーブ・ガンディー暗殺事件」をもとにした映画だ。多民族国家のインドでは政治家の暗殺事件が多く、インド独立運動の指導者だったマハトマ・ガンディーも暗殺されているし、ラジーブの母インディラ・ガンディーも暗殺されている。「ガンディー暗殺事件」だけでは、誰が殺された事件のことを指しているのかよくわからない。だから「ラジーブ・ガンディー暗殺事件」と言わなければならない。なんとも物騒な国だ。映画は19歳の女性テロリストであるマッリを主人公に、彼女が組織の訓練キャンプから組織のネットワークを伝って町に送り込まれ、そこで暗殺決行までの数日間を過ごすというお話になっている。映画の製作者たちは反政府ゲリラ組織を取材してはいるのだろうが、これが「ラジーブ・ガンディー暗殺事件」の真相というわけではない。映画は「政治家の暗殺」に向かうひとりの少女を主人公にしたフィクションだ。

 映画の中では主人公マッリが所属する組織の名前も、彼女がターゲットとする大物政治家の名前も明らかにされない。相手の政治家の姿すら、わざとフォーカスをはずしてぼんやりとしか描かないのだ。これは「現実に触発されたフィクション」だからという理由もあるだろうし、具体的な政治家名や組織名を匂わせる描写をすると、いろいろと差し障りがあるということもあろう。しかしそれ以上に、「インドにはマッリのようなテロリストが無数に存在する」「テロのターゲットにされている政治家は大勢いる」ということを、組織や政治家名を匿名にすることで表わしたかったのではないだろうか。

 話自体はそれほど面白いとは思わなかった。マッリの息づかいや、時々画面を真っ黒にして心理的動揺を表現する手法は、ミュージカル風の娯楽作が多いインドでは冒険的な手法かもしれないけれど……。むしろ僕はこの映画に登場するガイドの少年や、マッリが寄宿する家の老夫婦などの人物造形を面白く感じた。マッリを演じた女優の、まっすぐな眼差しも好感が持てる。監督はサントーシュ・シヴァン。これが監督デビュー作だ。

(英題:MALLI: THE TERRORIST)

2002年春休み公開予定 新宿武蔵野館
配給:キングレコード、ギャガ・コミュニケーションズ、ゼアリズエンタープライズ
宣伝:オムロ

(上映時間:1時間39分)

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/

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