Soundtrack

2002/02/06 メディアボックス試写室
SUGIZOと柴咲コウ主演のファンタジックな大人の童話。
SUGIZOのファンは楽しめるのかも。by K. Hattori

 元“LUNA SEA”のメンバーだったSUGIZOの初主演映画は、音楽とファンタジックな映像が溶けあったムードたっぷりの大人の童話。共演は『バトル・ロワイアル』『GO』の売れっ子・柴咲コウ。監督・脚本はミュージック・ビデオやテレビのタイトルバックなどの演出で、独特の映像世界を展開してきた二階健。作品の方向性としては普通の劇映画ではなく、同じKSSが製作したマリスミゼル初出演・初主演映画『薔薇の婚礼〜真夜中に交わした約束〜』と同じ、映画の形を借りたミュージック・ビデオのようなもの。音楽ももちろんSUGIZO本人が担当し、演奏シーンもたっぷりあるので、SUGIZOのファンは必見!というもの。だがこれを普通の「映画作品」だと思うと、内容的にちょっとどうなんでしょうか。もちろん『薔薇の婚礼』ほどには独りよがりでなく、一応は話の筋も通っているしテーマもしっかりしている。でも世界観があまりにもコチコチに出来上がりすぎていて、全体にものすごく小さな範囲の出来事のように見えてしまう。もちろんこの話は実際に小さな世界の出来事なのだけれど、それを越えてどこかで外とつながっていないと、ナルシスティックな自己満足に終わってしまうと思う。

 幼い頃に両親を亡くし、兄妹ふたりきりで生活している志音と美砂。兄はバイオリンを奏で、その横で妹は絵本を作る。両親を亡くして以来言葉を失った美砂は、表情と筆談で兄と言葉を交わす。だがある時彼女は、事故で命を落としてしまうのだ。ひとりきりになった志音は、バイオリンを弾くこともやめ、たったひとりで廃墟のような家の中に閉じこもり続ける。長い時間がたった。志音のもとに、ひとりの少女がたずねてくる。彼女の名はミサ。死んだ美砂と瓜二つの少女。志音は彼女にバイオリンを教えるため、ゆっくりと立ち上がる……。

 この映画はおとぎ話のような「どこにもない場所」を舞台にしているように見えるが、映画を最後まで観ると、これが「我々のすぐそばにあるけれど目には見えないある場所」を舞台にしていることが明らかになる。映画はSUGIZO演じる志音の死と再生のドラマを、美砂とミサというふたりの少女を通して実現するのだが、この「死と再生」が単なる比喩ではないあたりがミソ。兄妹が子供の頃に見た残酷な人形芝居と、兄弟が子供の頃に両親を失った出来事との関係性を、少しずつ明らかにするミステリアスな作りもうまい。映画に登場する美術・衣装なども雰囲気があるし、全体にくすんだ青や緑に偏った冷たい色遣いと、ひたすら暖かいバイオリンの音色のコントラストも観る者に強い印象を残すだろう。

 でも僕、この映画が好きにはなれないのです。博物館のガラスケース越しに細工のきれいな工芸品を見させられているようなもので、手にとってその手触りを味わうことはできない。映画の世界が観客不在のまま自己完結していて、観る側の感情移入を阻んでしまようです。うまいことはうまいし、よくできているとは思うけれど、作り手が自分の技芸に酔っているような気がする。

2002年3月9日公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:ギャガ・コミュニケーションズKシネマグループ 宣伝協力:オムロ

(上映時間:1時間33分)

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