ビューティフル・マインド

2002/02/18 UIP試写室
天才数学者の栄光と狂気と孤独を描いた実録ヒューマンドラマ。
主演はラッセル・クロウ。監督はロン・ハワード。by K. Hattori

 ゴールデングローブ賞を4部門受賞し、アカデミー賞でも8部門にノミネートされている、ロン・ハワード監督の実録ヒューマンドラマ。'94年にノーベル経済学賞を受賞したジョン・ナッシュの同名伝記を原作にしているが、内容はかなり大胆に脚色してあるという。この映画は「ノーベル賞学者はこんなに立派な人でした」という偉人伝ではない。ひとりの人間が、自分の内面世界と外部の現実に折り合いを付けながら生きようとする、きわめてパーソナルな葛藤のドラマだ。原作の伝記は読んでいなくても、映画がそのどこをどう脚色しているかは、映画を観るだけで一目瞭然。この映画には、主人公ナッシュの一人称の描写が多いが、そこでは周囲の人には何も見えないのに、ナッシュの目にだけ見え、ナッシュの耳にだけ聞こえるものがある。この「ナッシュの視点」こそが映画のポイント。映画を観る人たちは、そのアイデアの面白さに舌を巻くだろう。

 物語は1947年9月のプリンストン大学から始まる。アメリカ中から秀才たちが集まるこの大学の中でも、ジョン・ナッシュほどの変人はいない。彼の頭には数学のことしかない。この世を支配する真理に通じる独創的な論文を書き、それを世に認めさせることが彼の唯一の野心だ。周囲の同級生たちがガールハントにいそしむ中でも、彼は一心不乱に数学の研究に没頭していく。ガラスの中の光の屈折、フットボール選手の動き、囲碁の必勝法、バーで女の子をナンパするコツまで、ありとあらゆることがナッシュの頭の中では数学的に再構成されていく。そのかいあって、彼はMITの研究所に入所することができた。だが時は冷戦時代。研究所では国防計画に関わる秘密研究も数多く行われている。ナッシュ本人も、そうした極秘研究のひとつに組み込まれていく。

 天才と気狂いは紙一重と言うけれど、この映画の主人公はその紙一重の差を踏み越えて向こう側に行ってしまった男だ。真に独創的な研究をして、しかもそれによって世の中に認められたいという野心。自分は天才だという自負心。研究成果を求める周囲からのプレッシャー。だがそれだけが人を狂気に誘うわけではないだろう。ナッシュの場合、彼の狂気と研究成果は不可分な関係にある。彼が病気の治療のため薬を飲み始めると、同時に研究も滞ってしまう。研究を続けるために薬を飲まなくなれば、同時に狂気の発作も再発する。「僕には数学しかない」と言う主人公が、彼自身の狂気とどう折り合いを付けるかが物語り後半の主要モチーフになる。この後半がじつに面白い。前半の何倍も面白い。

 主演は『グラディエーター』のラッセル・クロウ。彼を支える妻アリシアを演じるのはジェニファー・コネリー。ふたりともアカデミー賞にノミネートされているが、僕が感心したのはクロウよりコネリーの側。この役に彼女をキャスティングした担当者に、ぜひアカデミー賞を差し上げたいくらいのハマリ具合。最近は忘れられつつあった女優だけれど、この映画の彼女はいい。

(原題:A BEAUTIFUL MIND)

2002年3月下旬公開 スカラ座他・全国東宝洋画系
配給:UIP

(上映時間:2時間16分)

ホームページ:http://www.uipjapan.com/beautifulmind/index.htm

Amazon.co.jp アソシエイトDVD:『ビューティフル・マインド』
原作:ビューティフル・マインド 天才数学者の絶望と奇跡
サントラCD:ビューティフル・マインド
原作洋書:A Beautiful Mind (Sylvia Naser)
関連DVD:ロン・ハワード監督作品

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ