春の日は過ぎゆく

2002/02/18 松竹試写室
録音技師の青年と年上のDJの間に芽生えた愛のおわり。
『八月のクリスマス』のホ・ジノ監督最新作。by K. Hattori

 デビュー作『八月のクリスマス』で注目されたホ・ジノ監督の新作は、ユ・ジテとイ・ヨンエ主演の切ないラブストーリー。ユ・ジテは『アタック・ザ・ガス・ステーション』や『リベラ・メ』など激しく熱いキャラクターも演じられる俳優だが、今回は激しさを内に秘めながらもいつも微笑みを絶やさない『リメンバー・ミー』系の好青年を演じている。イ・ヨンエは『JSA』で狂言回しのスイス人女性将校を演じていた女優。ちなみにこのふたり、ヒロインを演じたイ・ヨンエの方が5歳ほど年上。この年齢差が、そのまま映画にも反映する。

 ユ・ジテ演じる主人公サンウは、ソウルで録音技師の仕事をしている。彼は地方ラジオ局の仕事で訪れたカンヌンで、DJ兼プロデューサーのウンスと出会う。何度か仕事をして互いに好意を持つようになったふたりは、自然と付き合うようになる。年上で離婚歴のあるウンスだが、サンウはそんなこと気にしない。ところがある日を境にして、ふたりの関係はギクシャクし始める。ウンスが急に怒り出したり、突然1ヶ月会わないと言ったりする。連絡を取ると怒るくせに、突然ソウルまでやってきてサンウを喜ばせたりもするウンス。彼女に会いたくてたまらないサンウだったが、彼女からの言葉は「もう別れよう」だった。なぜ彼女が心変わりしてしまったのか、サンウにはまったくわからないのだが……。

 映画を観ている観客の中には、ヒロインに翻弄されるサンウを哀れに思って同情し、ウンスをひどい女だと思う人も多いに違いない。でも僕はむしろ、ウンスが気の毒だと思った。恋人のサンウに何か落ち度があったわけではない。彼に物足りなさを感じているわけでもない。彼女は心から彼のことを愛していたのだろうし、それはこの物語の最後まで変わらないと思う。でも彼女は一度結婚して離婚したという過去がある。彼女の方が年上だという負い目もある。仕事の上では彼女が彼を雇う立場だし、彼は何百キロも離れたところに住んでいる。別にこうしたことが恋の障害になるわけではないのだけれど、こうした事柄が、彼女を不安にさせるのだ。

 彼女はサンウを突き放し、傷つける。でもそれは彼女自身が、新しい恋で傷つきたくないという防御反応のようなものだと思う。彼女は目の前にある愛の確かさを感じながらも、それが永遠に続くとは信じられない。彼女は以前に「永遠の愛」を誓いながら、それが崩壊してしまうのを経験している。目の前にある愛にすべて委ねることができないまま、どこかに安全な自分の場所を確保しておこうとするのは、むしろそうした経験を持った人なら当然のことなのだ。彼女は目の前にある愛を値踏みする。相手がどこまで本気かを、確かめずにはいられない。これを「ずるい」と感じる人もいるだろう。確かにそれはずるいし、小賢しくて愚かな行為かもしれない。でもそうせざるを得ないくらいに、彼女の傷は深い。

 いろいろと身につまされる映画だった。今年観た「恋愛映画」の中では間違いなくナンバーワンだ。

(英題:ONE FINE SPRING DAY)

2002年初夏公開 Bunkamuraル・シネマ
配給:松竹 宣伝:楽舎、松竹

(上映時間:1時間53分)

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