Departure

2002/02/26 SPE試写室
『青い魚/Blue Fish』の中川陽介監督が再び那覇で映画を製作。
高校を卒業した3人組の旅立ち前夜を描く。by K. Hattori

 4年前にデビュー作『青い魚/Blue Fish』を撮って以来、次の作品が待ち望まれていた中川陽介監督の新作。今回も沖縄の那覇を舞台にした青春映画だが、残念ながら作品のデキは前作に及ばない。高校を卒業した高校生の少年3人組が主人公。一也は東京の大学に進学し、秀介はデザイナーの勉強をするためロンドンに留学するという。たったひとり那覇に残るマサル。明日は秀介がロンドンに旅立つ日だ。親友3人組はこれでバラバラになってしまうだろう。この映画はそんな3人が那覇の町で過ごす一夜を描き出していく。女性との別れがあり、出会いがあり、ケンカがある。話の構成としては、ジョージ・ルーカスの『アメリカン・グラフティ』と同じ。ただし『アメグラ』が青春時代をノスタルジックに描いていたのに対し、この映画『Departure』は青春時代を現在進行形の「今」として描いている。

 『青い魚』は那覇の町で若い男女が出会い、その関係が煮詰まり、凝縮していく物語だった。『Departure』はそれとは逆に、それまで凝縮していた人間関係がバラバラにほぐれていく物語だ。また『青い魚』は少女の話であり、『Departure』は少年たちの話だ。ふたつの映画は、まったく切り口が異なるのだ。ギュッと引き締まった『青い魚』の緊張感に身震いした僕が、今回の映画に多少の物足りなさを感じるのも仕方がないことかもしれない。深夜から翌朝にかけての物語という時間設定も、物語の中から人々が暮らしている「日常の時間」を排除してしまうことにつながっていると思う。若者たちが脱出しようとする「沖縄の退屈な生活」が、この映画からはうまく伝わってこない。

 もっとも「今ここにある生活」を退屈だと感じているのは、何も沖縄の若者に限らないだろう。東京のど真ん中に暮らしていても、日常に退屈している若者はいる。『Departure』はいかにも沖縄らしい風景を画面の外に追いやることで、「沖縄の若者の退屈さ」という物語を、どの時代のどの場所でも若者が感じている「日常の退屈さ」に置き換えようとしているのかもしれない。

 3人の若者は3人が別々に一夜を行動し、翌朝になって再びひとつに集まる。映画は3人の行動を並行して描いていくが、3人がそれぞれに別々の女性とホテルに入るシーンがちょうどシンクロするのは面白い。ただしこうした女性たちとの関係が、物語の中であまり大きな比重を占めているようにも思えないところが少し残念。3人の他の行動はてんでバラバラなのだから、このホテルの場面が映画のひとつのクライマックスというか、キーになる場面であることは間違いないように思えるのだけれど……。このあたりは、もうちょっとかなぁ。

 ひとりの少女の熱く燃え上がる恋心を鮮烈に描いた『青い魚』に比べると、今回の『Departure』はずいぶんと薄味。主人公を3人にしたことで物語の濃度が3倍にはならず、逆に3分の1に薄まってしまったような気がする。監督としても不本意なのかも。次回作に期待。

2002年5月公開予定 ユーロスペース
製作・配給・問い合せ:(株)大風

(上映時間:1時間20分)

ホームページ:http://www.departure-net.com/

Amazon.co.jp アソシエイト参考検索:中川陽介

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ