アリ

2002/02/26 丸の内ピカデリー1
伝説のチャンピオン、モハメド・アリをウィル・スミスが演じた映画。
語りの手法はともかく、試合シーンはすごい迫力。by K. Hattori

 '60年代から'70年代にかけて活躍した伝説のヘビー級チャンプ、モハメド・アリの伝記映画。主人公アリを演じるたウィル・スミスと、スポーツキャスターを演じたジョン・ボイトが、今年のアカデミー賞で主演男優賞と助演男優賞にノミネートされている。監督はマイケル・マン。物語はアマチュア上がりの若いボクサー、カシアス・クレイが、'64年にソニー・リストンを破って世界チャンピオンになるところから始まる。人種差別、マルコムXとの交流、ブラック・ムスリムへの入信、モハメド・アリへの改名、公民権運動の高まり、懲役拒否、タイトルの剥奪、マルコムXとキング牧師の暗殺など、当時の社会的事件と主人公の人生を交差させていく構成だ。これによってこの映画はモハメド・アリというひとりのボクサーを、大きく変貌しつつあったアメリカ社会を象徴する人物として描き出そうとしている。

 ただしこうした映画の意図が、必ずしもうまく表現に結びついていない部分も多い。映画の前半ではアリを「時代のヒーロー」として描き出すことに成功している映画も、後半になるとその意図を実現する手がかりを失って空回りを始める。複雑な時代背景の中で自分自身の言葉を威勢よくわめき散らすアリの姿が小気味いい前半に比べると、失ったベルトを取り戻そうと孤軍奮闘する後半のアリは、彼自身を中心とした小さな世界に入り込んでしまう。戦いのフィールドが狭くなるのだ。

 またこの映画では、その時々のアリの心情や心理状態について、ほとんど何も語ろうとしない。主人公アリは観客の感情移入を拒絶し、時に思いがけない不思議な行動をとったりする。例えばマルコムXと決別するシーンで、いったいアリは何を考えていたのか。映画のクライマックスにある対フォアマン戦を前に、アリはなぜ愛する妻を棄てて別の女を口説き始めるのか。試合の中で、アリは何を考えながらロープを背にしていたのか。

 こうしたわかりにくさは、監督の演出手法の問題だと思う。あるいはこれも、この映画の製作意図なのかもしれない。アリという実在の英雄の内面に深く立ち入ることなく、当時のアリのファンがそうであったように、ただ彼の試合や彼の生き方だけを通して、観客に何かを感じてほしいということなのかもしれないけれど……。しかし僕はこのわかりにくさを、いささか不親切だと感じる。アリの生きた時代をリアルタイムに経験した人なら、この映画のアリを通して「当時」をまざまざと思い出すことも可能だろう。そこから改めて映画のアリに対して、何らかの感情移入をすることも可能だろう。でもこの映画だけで、アリはつかみ所のない男に思える。

 映画としては少し観客によそよそしさを感じさせるのだが、ボクシング場面の迫力はすごかった。カメラが縦横無尽に動き回り、パンチを互いに繰り出しているボクサーのすぐ近くまで寄っていく。場合によっては、ボクサー同士の拳の間にまで入り込んでいく。この試合シーンを観るだけでも、この映画は一見の価値ありだ。

(原題:ALI)

2002年5月公開予定 丸の内ピカデリー1他・全国松竹東急系
配給:松竹、日本ヘラルド映画

(上映時間:2時間37分)

ホームページ:http://www.ali-movie.jp/

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