UNLOVED

2002/03/29 映画美学校第2試写室
誰だって自分らしく生きたい。でも自分らしさって誰が決めるの?
自分らしく生きるのも、それなりに大変らしい。by K. Hattori

 役所に勤める影山光子は、30歳を過ぎた今も安い木賃アパートにひとり暮らしをしている。仕事は人一倍できる方だが、出世や昇進にはまるで興味がない。勤続年数の長い光子がいつまでも役付なしでいることを、かえって上司が使いにくく感じているほどだ。そんな彼女のもとに、ベンチャー企業の経営者である勝野という男が現れる。彼は光子の能力を一目で見抜き、ぜひ自分の会社で働いてほしいと言う。だが光子はそうしたことに何も興味がない。欲がないわけではなく、自信がないわけでもない。光子は自分が自分らしく生きられるスタイルを知っていて、自分の身の丈に合った生活にこだわりを持っている。他人がどんな暮らしをしようと、どんな仕事をしていようと、他人の自分に対する評価がどうであろうと気にしない。常に自分らしくあることが、光子にとっての唯一のこだわりと言ってもいい。そのためには他人にずばずば物も言う。勝野が自分に高価なドレスを買ってくれても、高級なレストランに連れて行ってくれても、それは彼女にとって「自分らしくない」から不要なのだ。勝野はそんな彼女のはっきりした性格に惹かれつつ、そんな彼女がどうしても理解できないでいる。

 森口瑤子演じるヒロインが、タイプのまったく違うふたりの男の間と関わりを持つという、これをあえてジャンル分けすればラブストーリーに入るのかなぁ……という映画。しかしここでテーマになっているのは、「自分らしさ」というアヤフヤな価値観だろう。今は「男らしい」とか「女らしい」という言葉に限らず、「○○らしい」という言葉がどうも押しつけがましく感じられる時代だ。個人はその個人として生きているのであって、他人の決めた価値観の枠組みに合わせて生きる必要はない。そこで登場するのが「自分らしさ」という価値観だ。これこそ個人の尊重。これこそつまらない押しつけを超えた、究極の価値観であるかのようにも見える。だが「自分らしさ」とは何なのか? 自分の思い描く理想的な生活、理想的な仕事、理想的なパートナー、自分の身の丈に合った暮らし、自分の身の丈に合った仕事や収入……。そうしたものを、誰が「自分らしい」と決めるのか。誰も自分の正確な姿を知ることは出来ないではないか。そんな自分自身が、「自分らしさ」を知ることが出来るとなぜ言い切れるのか。この映画はヒロイン光子の「自分らしさ」へのこだわりを繰り返し描きながらも、本当にそれが「影山光子の身の丈に合った暮らし」なのかについては本当のところ答えられていないようにも思う。

 光子は自分らしい生活を楽しみながら、恋人の男には「あなたらしさ」を押しつける。自分は自分らしい生き方を知っているけれど、あなたは本当の自分らしさに気づいていないと責める。だとしたら、光子が自分で信じている「自分らしさ」ははたして本物なのか? 上善は水の若(ごと)し。水は他と争うことなく、器の形に合わせて自らの形を変えるものです。でも光子の生き方は、少々周囲との軋轢が大きすぎるような気もします。

2002年5月下旬公開予定 ユーロスペース
配給:サンセントシネマワークス 宣伝:スローラーナー

(上映時間:1時間57分)

ホームページ:http://www.eurospace.co.jp/

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