笑う蛙

2002/04/23 メディアボックス試写室
長塚京三と大塚寧々主演のサスペンス・コメディ。監督は平山秀幸。
雪村いづみとミッキー・カーチスが恋人役とは驚いた。by K. Hattori

 『学校の怪談』という大ヒットシリーズを手がけ、『愛を乞うひと』『ターン』など意欲的に作品を発表している平山秀幸監督の最新作。藤田宜永の小説「虜」を成島出が脚色している。主演は長塚京三と大塚寧々。銀行の支店長として堅実なサラリーマン生活を送っていた倉沢逸平は、水商売の女と不倫。しかも銀行から多額の金を横領したことが発覚し、全国に指名手配されてしまう。逃走の果てにたどり着いたのは、妻の父親が使っていた別荘だった。だがそこには、世間の目から隠れてるように新しい暮らしを始めている妻・涼子がいた。逸平は彼女に、少しの間でいいから匿ってくれと言う。涼子は彼が離婚届に判を押してくれることを条件に、1週間だけ匿うことを約束するのだが……。

 納戸に隠れた夫が戸の節穴から外の様子をうかがい、妻と新しい恋人の情事を盗み見る。捨てたはずの妻に対する新たな情欲の炎。夫に見られることで高められていく妻の官能。試写の案内通知や事前に配られる資料から事前にそんなドラマを期待していた僕は、映画を観て事前の期待が見事に裏切られてしまった。シリアスなサスペンス映画に思われた物語は、途中からクスクス笑いの絶えない喜劇へと変貌していく。いや、そもそもこの映画は、最初に逸平が画面に現れたときから喜劇だったのではないか。駅前から別荘に向かう彼が、道行く人々や車からの視線を気にして、必要以上に挙動不審な態度を見せてしまうシーンに、既に笑いの要素は含まれていないだろうか。別荘に忍び込もうとする逸平はどう見てもコソドロだし、風呂場から侵入した彼が腰を痛めるシーンはギャグでしかない。妻の膝にすがって「匿ってくれ」と懇願し、少し落ち着くと「風呂の戸が開いてたぞ。不用心だな」と逆に注意するくだりも、映画を観る者を微苦笑させずにいないだろう。

 涼子の英語塾に通う少女の口から、涼子の新しい恋人についての話が出る場面あたりから、この映画はあからさまに喜劇の方向に足を踏み入れていく。現れた涼子の恋人は、現代邦画の名バイプレイヤー國村隼扮する吉住という中年の男。仕事は石材業で、通称「墓石屋さん」と呼ばれている男だ。國村隼と大塚寧々の濡れ場が、エロチックになるはずがない。納戸の扉越しに聞こえてくる涼子の艶っぽい嬌声は、吉住が涼子の足や腰をマッサージしているのだ。まるでマンガだけれど、國村隼がこれをやると、バッチリ似合ってしまう。

 映画に涼子の家族が登場して、物語はさらにコミカルさを増していく。涼子の母親役で雪村いづみが登場。映画出演はなんと15年ぶりだというが、さすがに芸達者で堂々としたもの。その恋人役でミッキー・カーチスが登場するのには驚いた。かつて実生活で恋人同士だったふたりが、数十年を経てこうして映画の中で虚構の恋人を演じるという因縁もさることながら、この配役で雪村いづみに15年ぶりの映画出演を依頼したこの映画のスタッフは偉い! 最後は大爆笑のうちに映画は終る。

2002年夏公開予定 新宿武蔵野館
配給:オフィス・シロウズ、メディアボックス

(上映時間:1時間36分)

ホームページ:http://www.shirous.com/kaeru/

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原作:虜(藤田宜永)
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