月のあかり
NOBODY CAN GET AWAY FROM MOONLIGHT

2002/04/25 TCC試写室
沖縄の海岸にある山羊汁屋「月子」を舞台にしたドラマ。
なんだかエピソードが未整理で中途半端だなぁ。by K. Hattori

 沖縄の青い海に面した大きな岩の上に、山羊汁が名物の居酒屋「月子」がある。切り盛りするのは初老のおっさんと、山羊汁に惚れ込んで雇ってもらったという、純朴だが引き算のできない青年。そこにやってきたのが、東京からあてもなくバイクで旅に出た男だ。海岸にポツリと見える明かりを頼りにこの店にたどり着いた男は、「雇ってくれ」と勝手に店に居着いてしまった。彼を追うように、東京から恋人の若い女もやってくる。

 物語の基本は、「月子」に集まるこれら4人の人間関係にある。そして目に見えない形でこの人間関係を支配しているのが、店の名前にもなっている月子という女性。おっさんの死んだ女房だ。彼女の姿は歌となって、山羊汁の風味となって、店のそばの物置に寝かせてある泡盛となって、いつも「月子」を見守っている。東京から来た若い男女の関係と、死んだ月子とおっさんの関係が二重写しになり、そこに店で働く毛糸帽子の青年が緩衝剤として入り込む。放浪する男に対する女の一途な愛。その愛を感じながら、その愛に答えることができない男の不器用さ。不器用な男同士が、互いの不器用さを責め立てる哀れさと滑稽さ。その様子を見ながら、女は男への愛をさらに深くしていく。まぁそんな話。

 ところが映画にはこの他に、いくつかのエピソードが並行していく。ひとつは女性に次々と声をかけては殺す、顔を見せない連続殺人鬼のエピソード。もうひとつは、おっさんがかつて東京で拾って隠したという大金と、それを取り戻そうとして沖縄に放たれた殺し屋のエピソード。さらに映画の序盤で店に現れたヤクザとピストルについてのエピソード。これらがどのように主人公たち4人にからんでいくのかと思っていると、これがまったく物語の中心とからんでいかず、宙ぶらりんになったままなのは大いに不満だ。何なんでしょうか、これは。月子が残したバイクも、その後どうなるんだろう。

 海に突き出すようにして建てられた「月子」は、台風が来ればあっという間に海の藻屑になりそうだし、波打ち際に停めてあるバイクも、強い風でも吹けば塩混じりの水や砂をかぶって、あっという間にサビだらけになってしまうだろう。海岸の掘っ建て小屋の中は、泡盛を保管するには悪条件過ぎないだろうか。寝泊まりするところはなさそうだけれど、オッサンや働いている毛糸帽子はいったいどこで寝泊まりしているのか。着ている服がいつも同じなのは人物の識別が付けやすいという意味ではありがたいけれど、いささか薄汚く見えなくもないのだなぁ。映画だから劇中に嘘があってもいいけれど、それがいくつもいくつも続くと白けてしまう。

 男のわがままにいつまでも付き合い続ける女という設定も、今どき時代錯誤じゃあるまいか。椎名へきる演じるヒロインが「私はやっぱりあいつに付いていく」と宣言するあたりで、僕は内心「アホな女だなぁ」と呆れかえってしまった。連続殺人犯はその後どうなった? すべて放りっぱなしで、なんとも無責任な話です。

2002年6月8日公開 テアトル池袋
配給:ギャガ・コミュニケーションズ 宣伝:ギャガKシネマ

(上映時間:1時間52分)

ホームページ:http://www.rex-creative.jp/yagijiru/

Amazon.co.jp アソシエイトDVD:月のあかり
関連リンク:椎名へきる

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