ゴダールのマリア

2002/05/08 映画美学校第1試写室
ゴダールによるキリスト生誕劇のパロディ。比較的わかりやすい映画。
アンヌ=マリー・ミエヴィルの短編『マリアの本』を併映。by K. Hattori

 アンヌ=マリー・ミエヴィル監督の短篇映画『マリアの本』と、ジャン=リュック・ゴダール監督の長編『こんにちは、マリア』で構成された、2本で1組の作品。最初に『マリアの本』が上映されるが、これは別れて暮らし始めた夫婦と娘の物語。口論の絶えない夫婦の間で苦しむ娘、別居した父のもとを訪ねる時の気持ち、やがて母には新しい恋人ができるのだが……、といった流れになっているが、とりたてて大きなドラマはない。しかし家族それぞれの心情が細やかに描写されている様子は見事。思春期の少女が突然素っ頓狂な事を言い出したりする姿は面白いが、こうした行動でしか両親に抗議できない少女には同情するしかない。父親役は名優ブリュノ・クレメール。娘の宿題を一緒にする場面がよい。

 『マリアの本』が一段落すると、画面に突然「その頃」という字幕が現れ、出し抜けに『こんにちは、マリア』が始まる。『マリアの本』と『こんにちは、マリア』は、同じ時間と世界を共有する2つの物語なのだ。ただし直接の接点はない。主人公の少女の名はどちらもマリアだが、もちろん同一人物ではない。

 『こんにちは、マリア』はキリスト生誕劇のパロディだ。学校のバスケットボール部に所属する少女マリーのもとに、タクシーの運転手をしているボーイフレンドのジョゼフが奇妙な男を連れてくる。ガブリエルと名乗るその男はマリーの妊娠を告げると、あっという間に立ち去ってしまう。ヨゼフは「誰の子供なんだ!」とマリーに詰め寄るが、処女であるマリー本人にとって、妊娠はまったく身に覚えのないこと。だが彼女は自分が妊娠していることを確信する。医者の診断もあり、ジョゼフもマリーの妊娠を認めざるを得ない。やがてジョセフとマリーは正式に結婚し、子供が生まれるのだが……。

 タイトルの原題は「おめでとう、マリア」という意味。これはルカ伝1章に書かれている大天使ガブリエルの言葉を引用したものだが、そのまま「天使祝詞(アヴェマリア)」という有名な祈りの言葉になって、「主の祈り」と同じぐらいカトリックの信者に親しまれている。ちなみに日本語だと「めでたし、聖寵みち満てるマリア、主御身とともにまします……」となる。カトリック信者にとって聖母マリアは特別な存在なので、その存在をパロディ化したようなこの映画に対する反発はかなりあったという。まぁ真面目な人は嫌がるでしょう。

 映画の中で面白かったのは、マリア(マリー)の描き方よりむしろヨセフ(ジョゼフ)の描写だった。想いを寄せるガールフレンドが突然妊娠したと告げられ、嫉妬に身を焦がすジョゼフ。マリーの言葉を信じて「子供は俺の子供として引き取る」と男気を見せたと思うと、その直後には「でも他の男の子供だったら俺は笑いものだ」と悩んだりもする。聖書の中ではヨセフの影が薄いので、この映画がジョゼフという男を通してヨセフの人間性や葛藤を掘り下げているのは興味深かった。まぁゴダールには別の意図があるのかもしれないけど……。

(原題:LE LIVRE DE MARIE/JE VOUS SALUE, MARIE)

2002年8月公開予定 シネ・アミューズ(レイト)
配給:ザジフィルムズ

(上映時間:1時間48分)

ホームページ:http://www.zaziefilms.com/

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