アリスの出発(たびだち)

2002/05/11 サンプルビデオ
サンドリーヌ・キベルランが新しい町で新しい生活を始める。
失業は新しい生活を始めるための第一歩なのだ。by K. Hattori

 勤めていた会社を突然首になったアリスは、心機一転新しい生活を始めるために恋人とも別れ、北フランスの小さな町から大都市リヨンにやってくる。たまたま飛び込んだ小さなホテルを拠点に、新しい仕事を探し始める。このホテルに居候として転がり込んでいるのが、建設現場で働く青年ブリュノ。恋人と別れてひとりきりの彼は、誰も待つ人のいない部屋に帰りたくないと、友人が働くこのホテルに転がり込んでいたのだ。ホテルのバーで言葉を交わすアリスとブリュノ。だがその出会いは、最初からギクシャクしたものだった。互いに不愉快な思いをしたまま、翌朝ホテルの食堂でばつの悪い再会をするふたり。アリスに惹かれ始めていたブリュノは、彼女をサッカー見物に誘ってOKの返事をもらうのだが……。

 女性監督レティシア・マッソンの長編第1作。主人公アリスを演じているのは、『哀しみのスパイ』『ボーマルシェ/フィガロの誕生』『カドリーユ』などの出演しているサンドリーヌ・キベルラン。彼女はこの映画で、セザール賞の有望若手女優賞を受賞している。製作されたのは'95年。翌年には日本でもぴあフィルムフェスティバルで上映されているそうだけれど、なぜそれが今になっていきなり劇場公開されるのかは謎。たぶんこの映画が、もの凄く好きな人がどこかにいたのでしょう。

 映画の冒頭に、企業の面接を受ける大勢の女性の姿が次々に登場しては消えていく。この映画はこの場面を用意することで、主人公のアリスが特別な誰かではなく、我々の隣にいるごく普通の誰かであることを示しているのです。ブリュノの登場シーンも印象的。サッカーグラウンドでユニフォーム姿のままひっくり返っている彼は、職場に出向けばまた現場のユニフォーム姿。こうした演出もまた、ブリュノというキャラクターをどこにでもいるありふれた誰かとして登場させたかったからでしょう。主人公たちはそれなりに美男美女だったりしますが、それは映画のお約束。映画の中の彼らは特別な存在ではなく、我々と同じ等身大の生活者に過ぎないのです。

 失業をきっかけにそれまでの生活をすべて捨て、新しく生きようと決意するアリス。その姿に僕は共感した。缶詰工場に勤め続けていたのでは決して味わえないような経験が、失業をきっかけにして次々にアリスのもとに転がり込んでくる。愛してもいない男と別れることも、うんざりするような故郷の町を離れることも、歌手を目指して歌の勉強をすることも、大都会でホテル暮らしをすることも、缶詰工場を首にならなけばそのままになっていただろう。「今の生活はちょっとなぁ……」と思っている人は世の中に多い。でもその生活を捨てて新しい生活を選び取る勇気を持つ人は、あまりいないと思う。生活に大きな不満があっても、なんとか食えるうちはその生活を捨てられないのが人間というものです。失業という不測の事態は、生活を変えたいと願っている人にとっては、背中を押してくれる大きな力になる。何事も前向きに考えれば、目の前に道は開けるものです。

(原題:EN AVOIR (OU PAS))

2002年5月25日〜6月21日公開予定 俳優座シネマ
配給:オンリー・ハーツ

(上映時間:1時間50分)

ホームページ:http://www.onlyhearts.co.jp/

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