マンホール

2002/05/13 映画美学校第2試写室
鈴井貴之監督のデビュー作。北海道ロケが作品に命を吹き込んでいる。
テーマは家族。ちょっとファンタジーが入ってます。by K. Hattori

 構成作家やタレントとして活動している鈴井貴之が、かつての劇団仲間である安田顕主演で作った映画監督デビュー作。ホームドラマというわけではないが、テーマになっているのは「家族」だ。共演は三輪明日美、大泉洋、本田博太郎、金久美子、北村一輝、中本賢、きたろう、風祭ゆき、田口トモロヲ、小野寺昭など、かなり豪華。監督の出身地である北海道でロケした映像は全体に透明感があり、物語の中に含まれるざらざらとした要素もきれいに濾過されてしまっているように見える。同じ話を東京を舞台にして作ることはできるだろう。でもこれを東京の話にしてしまうと、もっと泥臭くて薄汚れた映画になってしまったと思う。

 主人公の小林正義は、札幌の交番に務める平巡査だ。ある日パトロール中に女子高生のバッグをひったくった男を追跡して逮捕するが、被害者の女子高生はそのままバッグを拾って名前も告げず立ち去ってしまった。彼女の名前は鈴木希。親には札幌の進学塾に行くと偽り、ススキノのデートクラブで働いている。客に身体は売らないが、一緒に食事をしたり、カラオケに行ったりしてお小遣いをもらうのだ。ところが希の常連客である佐藤の妻が、クラブの事務所に乗り込んできたことから警察沙汰に発展。希は警察が来る前に逃げ出すが、事務所の近くで正義にみつかってしまう。正義は希の素性を知ると、何かと彼女の行動に口を差し挟むようになるのだが……。

 正義という人物はこの映画の中では一種の狂言回しになっていて、実質的に物語を形作っているのは三輪明日美演じる希だ。本田博太郎演じる父親は彼女が通っている高校の生活主任だが、教頭昇進を前に世間体ばかりを気にしている。娘が遅刻しがちだと、生活指導をしている自分の体面がない。娘がきちんと大学に進学してくれないと、自分が世間に何と言われるかわからない。そんなことばかり心配して、娘ときちんと向き合うことができない。娘はそんな父に反抗して家を飛び出す。金久美子演じる母も家族がバラバラになっていることを知りながら、自分が調整役を演じることすらできないでいる。きたろうが演じる希の常連客・佐藤も、家庭状態は深刻だ。彼は希と同じ年の娘がいるのに、その娘とはまともに口もきけない状態が1年も続いている。妻との関係もギクシャクしている。佐藤がデートクラブ通いを続けるのは、そんな居心地の悪い家庭からの逃避なのだ。

 誰もが家族や家庭から逃げている。希がデートクラブに所属するのは、家庭からの逃避。彼女の父が教頭昇進に血道を上げるのも、やはり居心地の悪くなっている家庭からの逃避かもしれない。主人公の正義が母をおいて家を飛び出したのも、きっと家庭からの逃げ出したかったのだろう。そんな彼らが家族や家庭と向き合うきっかけを作るのが「夢のマンホール」なのだと思う。

 正義が作っている自己中心的なホームページは、まるで自分のホームページを見せられているようでギクリとした。映画瓦版も同じぐらい「ダッセェ!」ぞ。

2002年6月22日公開予定 シネ・リーブル池袋(レイト)
配給:アースライズ 宣伝:スキップ

(上映時間:1時間49分)

ホームページ:http://www.man-hole.com/

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