チョコレート

2002/05/29 GAGA試写室
主演のハル・ベリーが黒人女性初のアカデミー主演女優賞を受賞。
静かだが、力強くて深い感動が味わえるドラマ。by K. Hattori

 ジョージア州の刑務所で看守をしているハンクは、仕事を真面目にこなすことで同僚たちの信頼も厚い男だ。今は自宅で隠退生活を送る父もかつては同じ刑務所で看守をしており、一人息子のソニーも同僚として看守の職に就いている。だがソニーは看守の仕事が性に合わないらしく、いつも父親のハンクをいらいらさせてばかりいるのだ。死刑囚のマスグローヴが処刑される日、不甲斐ない態度を見せたソニーをハンクは厳しく責め立てた。その翌日、ソニーは父や祖父の見ている目の前で自殺してしまう。ハンクは息子を失って初めて気づく。自分は看守の仕事が好きではなかったし、自分に生き方を押しつけた父親を憎んでいた。でもそれを正視することができず、自分の苛立ちを息子にぶつけていたのだと。生き方を変えたい。もう一度、自分の人生を取り戻したい。ハンクは刑務所の仕事を辞めることにする。

 死刑囚マスグローヴの妻レティシアは、10年以上に渡る「死刑囚の妻」としての生活に疲れ果てていた。夫を愛していないわけではない。だが夫の処刑を悲しむより、今は刑務所の中の夫から解放されるという気持ちの方が大きいのだ。夫が処刑されてしばらくたったある雨の夜、レティシアと一緒に帰宅途中の息子が、車にひき逃げされてしまう。たまたま通りかかったハンクの車で母子は病院に運ばれるが、手当の甲斐もなく息子は死んでしまう。ハンクとレティシアはこうして出会った……。

 ハンクを演じるのはビリー・ボブ・ソーントン。レティシアを演じるのは、今年のアカデミー賞で黒人女性として初めて主演女優賞を受賞したハル・ベリー。生まれてから一度も幸福を味わったことのないような男と女が運命的に出会い、小さな幸せを共に育もうとするドラマだ。物語の中心になっているのは、ハンクを中心とした父子三代に渡る葛藤。ハンクの父は息子を精神的に虐待するのだが、そこから逃れられないまま、ハンクは自分自身の息子ソニーに、自分が父親から受けたのとまったく同じことを繰り返して死にまで追いやってしまう。ソニーが祖父と父の目の前でピストルの引き金を引いたのは、彼が無意識に祖父を嫌悪していたからだろう。

 レティシアというキャラクターは、ハンクの変化を劇的に演出するために、都合よく作られている人物設定のようにも思える。だがハル・ベリーはそこに血肉を通わせ、ハンクの変化に連れ添う脇役から、ハンクと同格の大きな存在にまで膨らませている。この役は演じる女優の実力次第で、大きくもなれば小さくもなる役だと思う。ハル・ベリーは見事にこの役を大輪の花に仕上げた。

 マーク・フォスター監督の演出はきわめて抑制されており、死刑の執行や息子の死といった劇的な場面でも、ことさら観客の感情を煽るような演出はしていない。しかしこの抑制されたタッチが、激しい感情の葛藤を内面に持ちながらも、自分の殻を破れずにいるハンクの苦しさを一層切実に感じさせる効果を生みだしている。映画を観終ると、心の奥底から感動が広がる映画だと思う。

(原題:Monster's Ball)

2002年夏公開予定 シャンテシネ
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:ギャガGシネマ、ビターズ・エンド

(上映時間:1時間53分|アメリカ)

ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/

Amazon.co.jp アソシエイトDVD:チョコレート
サントラCD:Monster's Ball(輸入盤)
関連DVD:ハル・ベリー
関連DVD:ビリー・ボブ・ソーントン

Click here to visit our sponsor

ホームページ

ホームページへ